教坊

教坊（きょうぼう）とは

教坊とは、唐代以降の中国王朝において、宮廷に仕える楽人や妓女たちに宮廷音楽を教習させるための機関です。楽曲や歌舞の習得を主な目的とし、官妓にあたる妓女を統括する役割も担っていました。唐代に始まり、その後の王朝に引き継がれましたが、清代の雍正帝の時代に廃止されました。

歴史

教坊の起源は、唐の初代皇帝である李淵の時代、武徳年間に宮城内に創設された内教坊に遡ります。玄宗の開元2年（714年）には、音楽を司る太常寺から雅楽（伝統的な音楽）を残し、俗楽と散楽を分け、それらを専門に習得させるための左右教坊が長安と洛陽にそれぞれ設置されました。内教坊は大明宮に移され、梨園も設立されています。

長安の右教坊は光宅坊に置かれ、歌に長けた者が多く集められました。一方、左教坊は延政坊にあり、舞に巧みな者が多かったとされています。

安史の乱以降、教坊は一時衰退しましたが、その後も各王朝に引き継がれました。しかし、清代初期に民間から楽人を募る方針に転換したことで、教坊は廃止されることとなりました。

現代では、女子十二楽坊という音楽グループの名前の由来となっています。

唐代の教坊と妓女

崔令欽の「教坊記」によると、唐代の教坊に在籍する妓女は、宮廷に仕えるだけでなく、広い範囲から選ばれていました。容姿と芸に優れた妓女は選抜され、太極宮にある宜春院に入り「内人」（または前頭人）と呼ばれました。内人は特別に重んじられ、皇帝から寵愛を受けた者は「十家」と呼ばれ、宮城に屋敷を与えられました。内人は月に2回または16日、もしくは誕生日に家族との面会が許されていました。また、他の妓女とは異なり、魚袋を身につけることが許されていました。

宮廷の宴楽の際、内人だけでは足りない場合、「宮人」が加わりました。宮人は宮妓から選ばれました。平民の娘が容姿によって選ばれた場合は「スウ弾子」と呼ばれ、五弦・琵琶・箜篌・箏などの楽器を学びました。宜春院や教坊の見習いは「雑婦女」と呼ばれていました。

玄宗は自ら妓女たちに歌舞を指導し、そのもとで数多くの楽曲が創作・演奏されました。教坊の妓女たちは互いに親睦を深め、香を焚いて義兄弟の契りを結ぶ習慣があり、これを香火兄弟と呼びました。香火兄弟は突厥の一妻多夫制を参考に作られたとされ、多いときは14、15人、少ない時でも8、9人いたといわれています。身分のある者に呼び出された場合、宮廷の外に出ることも許され、その際には香火兄弟も付き添い、呼び出した官人と親密な関係になることもありました。その際、「兄弟」と親しい官人は「嫁」と呼ばれ、例えば男が「長男」と親しかった場合、他の兄弟は彼を「兄嫁」と呼びました。年を取ると、宮廷から出ることを願い出ることもでき、比較的自由な立場であったとされています。

教坊は、単なる音楽機関としてだけでなく、唐代の文化や社会を色濃く反映した場所であったと言えるでしょう。

脚注

崔令欽「教坊記」

関連項目

梨園
妓女
内教坊（日本古代の律令制における令外官）

参考文献

崔令欽・孫棨「教坊記・北里志」（平凡社、東洋文庫、齋藤茂訳注、1992年）ISBN 4582805493
齋藤茂「妓女と中国文人」（東方選書、2000年）ISBN 4497200051
佐藤武敏「長安」（講談社学術文庫、2004年）ISBN 4061596632
高世瑜「大唐帝国の女性たち」（岩波書店、小林一美・任明訳、1999年）ISBN 4000012886
南方熊楠 『南方熊楠全集第4巻』　(平凡社 1972年) ISBN 978-4582429046

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