櫓

櫓（やぐら）の多様な姿

「櫓（やぐら）」という語は、古くから日本に存在する様々な構造物や、構造の呼称として用いられてきました。矢倉、矢蔵、兵庫といった字も当てられ、その形態や用途は時代や地域によって多様性を示します。

建物の櫓

櫓は、木材などを高く積み上げた仮設または常設の建築物、構造物を指します。代表的な例として、以下のものが挙げられます。

芝居櫓

かつての芝居小屋では、人ひとりが乗れる籠状の骨組みに梵天や槍を組み合わせ、幕で囲った櫓が、入口の上部に設置されていました。ここで太鼓を叩き、興行の開始を知らせ、官許の証でもありました。明治以降も歌舞伎などの劇場で、興行の際に櫓が上がる伝統が受け継がれています。

太鼓櫓

大相撲興行では、寄せ太鼓やはね太鼓を打つための太鼓櫓が用いられました。現在では、両国国技館などには安全性を考慮した常設の太鼓櫓が備えられています。エレベーターが設置されているものもあります。

祭り櫓

祭りや盆踊りなどの会場に、塔状の構造物を仮設することもあります。櫓の上で音楽が演奏されたり、縄に飾りつけが施されたりして、祭りの雰囲気を盛り上げます。

火の見櫓

火災発生時に、人が登って火事現場の位置を確認し、半鐘を打って周囲に知らせるための建物です。防災行政無線のスピーカー設置塔として活用されている場合も多く、「半鐘櫓」と呼ばれることもあります。

建物以外の櫓

櫓という名称は、建物以外にも様々な場面で使われます。

大相撲の技

大相撲には「櫓投げ」という技があります。かつては「上手櫓」「下手櫓」と区別されていましたが、現在は統一されています。

将棋の矢倉

将棋の囲いの一つに「矢倉囲い」があります。居飛車戦法でよく用いられる堅実な囲いです。

トーナメント表

トーナメント戦の組み合わせ図を、その形状から「やぐら」と呼ぶことがあります。

その他

その他にも、違い棚の一種、炬燵の脚の骨組み、人間騎馬や組体操の組み手、大型和船の上部構造（船櫓）、攻城用の移動式櫓（攻城櫓、ダシ矢倉）、杭打ちや井戸掘りの際の仮設構造物（杭打ちやぐら）、油田の掘削用構造物など、多様な場面で「やぐら」という語が使われています。

櫓の歴史と文化的意義

櫓は、単なる構造物としてだけでなく、それぞれの用途において重要な役割を果たしてきました。祭りの賑わい、大相撲の興行、火災からの防災、さらには将棋の戦術など、日本の文化や社会に深く関わってきた歴史を持つのです。

まとめ

「櫓」は、その多様な形態と用途から、日本の伝統と文化を象徴する言葉と言えるでしょう。時代を超えて受け継がれてきた技術と、人々の生活に密着した存在として、これからもその姿を見ることができるでしょう。

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