正露丸

正露丸（せいろがん）とは

正露丸は、主に木クレオソートを主成分とする胃腸薬で、下痢や食あたりなどの症状を緩和するために用いられます。旧称は「征露丸」で、その名称は日露戦争に由来します。

概要

正露丸は、日局木クレオソートを主成分とする一般用医薬品で、各メーカーによって多少配合が異なります。伝統的な丸剤のほか、匂いを抑えた糖衣錠や速効性を期待したソフトカプセル剤も販売されています。

名称について

「正露丸」という名称は、大幸薬品が商標登録を申請しましたが、普通名称化しているとして商標権は無効と判断されました。しかし、現在でも多くのメーカーが「正露丸」の名称を使用しています。

各メーカーの特徴

パッケージデザインは、オレンジ色の箱に赤字で「正露丸」と縦書きされているものが多く、各メーカーのロゴマークが名称の上に配置されています。大幸薬品は喇叭マーク、和泉薬品工業は瓢箪マークなど、メーカーごとに独自のマークがあります。

カテゴリ

胃腸薬、保健常備薬、整腸剤、止瀉薬など、メーカーによって品目カテゴリに差異があります。

CMソング

大幸薬品のCMで使用されているラッパ曲は、旧日本軍の「食事ラッパ」です。この曲は2017年に商標登録されています。

性質と効能

正露丸は、主に以下の症状に効果があるとされています。

軟便
下痢
食あたり
水あたり
はき下し
くだり腹
消化不良による下痢
歯髄炎による虫歯の痛み

ただし、歯髄炎に対する効果は、大幸薬品製に限られる場合があります。

その他の効果

戦前には、結核や虚弱体質にも効果がある万能薬として用いられていましたが、医学的な根拠は明確ではありません。また、木クレオソートにはアニサキスの活動を抑える効果があるとの研究結果もありますが、薬機法上の効能としては認められていません。

成分

正露丸の主成分は、木クレオソートです。その他、アセンヤク末、オウバク末、カンゾウ末、陳皮末などが配合されています。各メーカーによって配合量や添加物が異なります。

各社の成分例

大幸薬品：日局木クレオソート、アセンヤク末、オウバク末、カンゾウ末、陳皮末
和泉薬品工業：クレオソート、ロートエキス、ケイヒ末、オウバク末、カンゾウ末、陳皮末
松本製薬工業：クレオソート、オウバク末、カンゾウ末、ケイヒ末、ゲンチアナ末、チンピ末
日本医薬品製造：クレオソート、ゲンノショウコ末、ケイヒ末、トウヒ末、カンゾウ末

陳皮末などの生薬には、グアイアコールの溶出を緩やかにし、止瀉作用を持続させる効果があると考えられています。

歴史

正露丸の主成分である木クレオソートは、1830年にドイツ人化学者カール・ライヘンバッハによって発見されました。当初は化膿傷の治療に使用されていましたが、後に胃腸疾患の治療にも用いられるようになりました。

日本への導入

1839年には、長崎の薬種問屋で「ケレヲソート」として取り扱いが開始されました。1902年には、中島佐一が「忠勇征露丸」の製造販売を開始し、1903年にはクレオソートが腸チフスを抑制する効果を持つことが発見されました。

日露戦争での活用

日露戦争において、征露丸は伝染病予防のために軍に支給されました。しかし、効果は統計的に証明されておらず、臭気などから服用しない兵士もいました。一方で、胃腸を強健にする効果は認められ、服用が推奨された記録もあります。

戦後の変遷

1946年に大幸薬品が「忠勇征露丸」の製造販売を引き継ぎ、1949年には「征」の字が好ましくないとの行政指導により「正露丸」と改称されました。現在、日本医薬品製造のみが「征露丸」の名称を使用しています。

知的財産権を巡る紛争

大幸薬品が「正露丸」の商標登録を申請しましたが、普通名称化しているとして無効となりました。その後、大幸薬品が類似商品を販売する他社を訴えましたが、敗訴しています。

商標登録訴訟

1954年に大幸薬品が「正露丸」の商標登録を行いましたが、1974年に最高裁で商標権が無効と判断されました。しかし、現在でも大幸薬品は「正露丸」の商標を保有しています。

不正競争防止訴訟

2005年、大幸薬品は和泉薬品工業に対し不正競争防止法違反で訴訟を起こしましたが、敗訴しました。この裁判で、「正露丸」が普通名称であることが再確認されました。

誤認混同に対する論議

正露丸に使用される「木クレオソート」は、工業用のクレオソート油とは異なるものです。過去に、木クレオソートとクレオソート油を混同した中傷がありましたが、大幸薬品は反論し、誤解を解いています。

安全性への懸念

過去に、正露丸の過剰服用による腸管壊死の事例が報告され、安全性への懸念が生じました。これに対し、大幸薬品は、木クレオソートの安全性を主張し、効能の根拠や臨床試験の結果を発表しています。

安全性への対応

大幸薬品は、木クレオソートの発がん性の否定、忍容性が高いこと、有効性のエビデンスなどを公表し、安全性に関する懸念に対応しています。しかし、フェノール成分の腐食性には注意が必要です。

まとめ

正露丸は、木クレオソートを主成分とする伝統的な胃腸薬です。日露戦争に由来する歴史を持ち、多くのメーカーから販売されています。過去には、商標権や安全性に関する論争がありましたが、現在ではその効能と安全性が広く認識されています。

脚注

注釈

出典

外部リンク

正露丸・セイロガン糖衣Ａの主成分木クレオソートの誤解 - 大幸薬品
薬害オンブズパースン会議：調査・検討対象 - 正露丸等クレオソート製剤に関する項目
宮千代加藤内科医院薬害関係 - ウェイバックマシン（2020年7月31日アーカイブ分）
大分健生病院・危険な正露丸の服用（今里真） - 大分市医師会医学会総会研究発表

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