池上通信機

池上通信機株式会社について

池上通信機株式会社（Ikegami Tsushinki Co., Ltd.）は、1946年に設立された日本の業務用放送機器・通信機器メーカーです。東京証券取引所スタンダード市場に上場しており、本社を東京都大田区池上に構えています。

概要

池上通信機の主力製品は、放送業務用のビデオカメラ、モニター、伝送機器です。特に放送用機器は、その高い技術力と信頼性から世界的に評価されており、エミー賞を4度受賞しています。世界中の放送局で同社の製品が使用されており、放送中継車の開発・納入においても、2015年までに800台を超える実績があります。NHKとの関係も深く、放送業界を支える重要な企業の一つです。放送用機器以外にも、業務用セキュリティカメラ、医療用カメラ、錠剤検査装置など、幅広い分野で製品を開発・製造しています。

歴史

池上通信機は、技術革新の歴史を牽引してきました。1960年代には、世界初の4 1/2インチイメージオルシコン搭載テレビ放送用ハンドヘルドカメラを発表しました。このカメラは、1962年2月にアメリカのCBSがNASAの有人宇宙船ミッション「フレンドシップ7号」のドキュメンタリー撮影に使用したことで、その性能が証明されました。

1972年には、世界初のポータブル・カラー・ビデオカメラ「HL-33」を開発しました。これにより、従来は16mmフィルムでの撮影と現像が必要だったニュース映像を、撮影後すぐに放送することが可能になり、報道の現場に大きな変革をもたらしました。その後発表されたカメラ「HL-51」は、ENG用途だけでなく、屋外撮影用の機材としても世界中の放送業界で広く採用されました。

歴代の放送用カメラ

池上通信機が開発してきた数々のカメラの中から、特に重要な機種について解説します。

HL-35（NHK-1型）/ HL-37: ベースステーションという電源ボックスとCCUによる技術者の操作が必要なスタジオハンディーカメラ。プロレスやボクシング中継で活躍しました。
HL-77: バックパックレスを実現した、3/4ポータブルVTR一体型カメラです。
HL-79E: 三管式ハンディカメラシリーズ。逆光に強く、ENGやテレビドラマのロケーション撮影に多用され、「ななきゅう」の愛称で親しまれました。
HL-95 UNICAM: HL-79Eの性能を継承し、ドッカブルタイプとして登場した、池上通信機最後の撮像管式カメラです。
HL-V55: 2/3FIT CCD（42万画素）を搭載したベータカム。SP VTR一体型カメラレコーダーで、当時としては画期的な製品でした。消費電力24Wと省電力でありながら、水平解像度700本以上を実現し、スローシャッターや色温度変更スイッチも搭載していました。その優れた性能とバランスの良さから、日本国内の全ての放送局や、アメリカの三大ネットワークでも使用されました。発売当時はレンズ抜きで600万円、レンズ込みで720万円ほどでした。テレビ番組『タモリ倶楽部』では17年間使用され、故障した際には修理特集が組まれましたが、高額な修理費用のため、修理を断念し「お別れ会」が開催されました。
Editcam: 池上通信機が独自開発したカメラで、「FieldPak」と命名されたHDDまたはフラッシュメモリ型のリムーバブルカセットを使用します。
GFCAM（GF series）HDS-V10: 東芝と共同開発したフラッシュメモリパック（GFPAK）に記録するテープレスビデオカメラ。MPEG2 HDフォーマットで、50Mbpsと100Mbpsの切り替えが可能。フルHDに対応し、本体重量は4.5kg。カメラは池上通信機が、メモリーパックやレコーダー、プレーヤーは東芝が製造しました。

受賞歴

池上通信機は、その技術開発力が評価され、エミー賞（技術開発部門）を4度受賞しています。

1981年：カラースタジオカメラの自動調整コンピュータ
1983年：カラーカメラ（EC-35）の技術開発
1994年：「スキンディテール」技術
2010年：放送用テープレス記録システム

年譜

1946年：池上通信機材製作所を創設、通信機用小型変圧器、電源機器等の製造を開始。
1948年：池上通信機材製作所に組織変更。
1949年：NHK総合技術研究所の指導を受け、周波数特性自動記録装置、テレビジョンスタジオ装置用部品を開発、製造販売開始。
1951年：商号を「池上通信機」に変更。
1958年：川崎工場新設、テレビジョン放送機器および音声機器の製造を開始。
1960年：水戸工場新設、電源装置、測定機器等の製造を開始。
1961年：藤沢工場新設、工業用テレビジョン機器および小型変圧器の製造を開始。
1961年：東京証券取引所店頭市場に株式公開。
1961年：東京証券取引所市場第二部に株式上場。
1964年：米国法人イケガミ エレクトロニクス インダストリーズ インコーポレーテッド オブ ニューヨーク（連結子会社）設立。
1969年：宇都宮工場新設し、工業用テレビジョン機器等の製造を開始。
1970年：池上工場新設し、テレビジョンカメラ部門等を川崎工場より移行
1971年：カラーカメラを開発、NHKや民放各社に納入。
1975年：米国法人イケガミ エレクトロニクス インダストリーズ インコーポレーテッド オブ ニューヨークの商号をイケガミ エレクトロニクス（ユー、エス、エイ）インコーポレーテッドに改める。
1976年：西ドイツ駐在員事務所を開設。
1980年：西ドイツ法人イケガミ エレクトロニクス（ヨーロッパ）GmbH（連結子会社）を設立し、駐在員事務所廃止。
1984年：東京証券取引所市場第一部に株式を指定替え上場。
1991年：株式会社テクノイケガミを設立。
1992年：池上エルダー株式会社を設立。
1993年：株式会社アイテムを設立。
1999年：藤沢事業所の業務を池上工場に統合。
2000年：川崎工場の業務を湘南工場に全面移転。
2003年：水戸工場の業務を宇都宮工場に統合。
2007年：東芝と資本提携締結。
2010年：池上エルダーを清算、池上工場と宇都宮工場を統合。
2012年：株式会社テクノイケガミを連結の範囲に追加、宇都宮プロダクトセンターの一部製品の生産機能をテクノイケガミへ移管。
2013年：東芝の保有する株式を買い取り資本提携解消。
2014年：シンガポール法人Ikegami Electronics Asia Pacific Pte.Ltd.設立。
2022年：東京証券取引所の市場再編に伴い、市場第一部からスタンダード市場に移行。

現在の主力製品

スタジオ用機器・装置
UHKシリーズ：4Kスタジオカメラ、ポータブルカメラ
UHLシリーズ：マルチパーパスカメラ
HQLMシリーズ：放送業務用モニター
DVUシリーズ：放送業務用ボード型機能ユニット。AVDL、フレームシンクロナイザ、解像度変換アップコンバータ/ダウンコンバータ、4分割画面機能、3D-LUT機能などを提供。
MuPSシリーズ：スイッチャ
無線伝送・光伝送機器
PFシリーズ、PPシリーズ：FPU

拠点

本社: 東京都大田区池上。
支店および営業所: 大阪、名古屋、富山、福岡、仙台、札幌。
開発・製造拠点
プロダクトセンター：栃木県宇都宮市。放送、セキュリティ、医療、検査装置の設計・製造。
システムセンター：神奈川県藤沢市。放送システム事業の基幹工場。スタジオサブシステム、中継車システム、伝送システムなどを生産。南館新設により、生産能力を拡大予定。
海外拠点
中華人民共和国：北京事務所
アメリカ合衆国：Ikegami Electronics （U.S.A.）,Inc.（Headquarters）
欧州：Ikegami Electronics （Europe） GmbH（Headquarters）
アジア・パシフィック:Ikegami Electronics Asia Pacific Pte.LTD.(Headquarters)

主要株主

2024年9月現在、主要株主は以下の通りです。

1. 池上通信機従業員持株会
2. 日本マスタートラスト信託銀行株式会社（信託口）
3. 池上通信機取引先持株会
4. 豊嶋　唯充

主要株主の変遷

2007年に東芝と資本提携し、東芝が当社の発行済み株式の20%を保有する関連会社となりました。その後、2013年に東芝保有の株式を自己株式取得により買い取り、資本提携を解消しています。

逸話

かつて両替機を製造していた時期がありました。また、1981年に任天堂からアーケードゲーム「ドンキーコング」の基板プログラミングの仕事を受けましたが、後に任天堂と訴訟沙汰となり、和解したものの実質的な絶縁状態となりました。その後セガ向けゲーム「ティップタップ（コンゴボンゴ）」の開発を行いました。

TV CM

池上通信機は業務用機器メーカーのため、一般向けのテレビCMは基本的に流しませんが、かつては福島県や石川県などの地域放送局で企業イメージCMを放送していました。1991年の正月には、ミハイル・ゴルバチョフが登場するCMも放送されました。

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