犬山橋

木曽川の清流をまたぎ、愛知県犬山市と岐阜県各務原市を結ぶ犬山橋（いぬやまばし）は、この地域の交通網において長きにわたり中核を担ってきた重要な橋梁です。かつては鉄道と道路が一本の橋を共有する併用橋として運用されていましたが、時代の変化に対応するため、現在は鉄道専用橋と道路専用橋が並行して架けられています。管理上、これらの橋は総称して犬山橋と呼ばれています。

概要

現在の鉄道橋が元々の犬山橋であり、そのすぐ下流側に隣接して、2000年（平成12年）3月28日に新たに道路橋が開通しました。この新しい道路橋は「ツインブリッジ」という愛称で親しまれています。鉄道橋は名古屋鉄道（名鉄）犬山線の一部として、犬山遊園駅と新鵜沼駅の間に位置し、橋の北側は新鵜沼駅に、南側は犬山遊園駅へと通じています。

道路橋が建設される以前、現在の鉄道橋の構造内に、県道27号春日井各務原線（旧国道41号の一部）の車道が設けられ、その中央を名鉄の複線線路が通っていました。これは、あたかも路面電車のように道路上を列車が走行する、全国的にも珍しい鉄道道路併用橋の形態でした。

鉄道橋の構造は、長さ223.15メートル、幅16メートルで、3径間の鋼下路曲弦ワーレントラス橋です。一方、道路橋「ツインブリッジ」は、長さが253.5メートル、幅は標準で25メートルですが、下流側に張り出した歩道の一部（通称「バルコニー」）がある箇所では最大31メートルとなります。構造形式は、3径間連続の鋼床版箱桁橋を採用しています。

現在の利用状況

鉄道専用となった現在の橋は、複線で運行されており、最高速度は時速60キロメートルに設定されています。しかし、両岸の駅間距離が比較的短く、橋の前後区間に速度制限箇所が存在するため、実際の列車走行速度は時速55キロメートル程度となっています。かつて併用橋であった時代には、安全上の観点から最高速度が時速25キロメートルに厳しく制限されており、特に名鉄の特急列車が、まるで路面電車のように低速で走行する様子は、当時の利用者の間で話題となりました。なお、鉄道橋はトラス構造の特性上、架線の高さが一般的な区間よりも低くなっています。

道路橋は、制限速度が時速50キロメートルの4車線道路として機能しています。車道の両側には幅の広い歩道が整備されており、自転車や歩行者も安全に通行できます。4車線のうち、外側の2車線は、橋を渡った先の交差点で左折する車両専用レーンとなっています。歩道の一部には、景観を楽しめる「バルコニー」も設けられています。また、犬山橋の左岸（愛知県側）下流には、木曽川の景勝地「日本ライン」を下る舟遊びの乗船場があります。

歴史

犬山橋の建設は1925年（大正14年）11月に始まり、鉄道の運行が開始されたのは翌1926年（大正15年）10月1日でした。橋が架けられる以前、現在の犬山橋がある場所には内田渡船（内田の渡し）が運航されていましたが、利用者が増加し、架橋の必要性が高まっていました。両岸にあたる当時の愛知県丹羽郡犬山町と岐阜県稲葉郡鵜沼村では、明治時代から橋を架けるための努力が重ねられていました。

1922年（大正11年）に飛騨鉄道（現在のJR高山本線）の岐阜～美濃太田間が開通した後、名古屋電気鉄道（後の名古屋鉄道）が犬山～鵜沼間の犬山線建設許可を申請しました。この際、木曽川を渡る橋の架設にあたり、道路と鉄道の共用と、愛知県、岐阜県、名古屋鉄道の三者による共同での架設および費用分担が合意され、これにより犬山橋が建設されました。

完成した橋は名鉄の所有物として扱われ、橋上での交通整理も名鉄の係員が行っていました。また、1976年（昭和51年）3月31日までは国道41号の一部としても指定されていました。

しかし、戦後のモータリゼーションの進展とともに道路交通量が増大し、慢性的な渋滞や自動車と鉄道車両との接触事故が頻繁に発生するようになりました。これにより、鉄道運行も道路状況に左右され、速度を大幅に制限されるなど、定時運行に支障をきたす事態となりました。これらの問題を解消するため、道路と歩道機能を分離し、並行して新しい道路橋「ツインブリッジ」を架設する計画が進められました。そして、2000年（平成12年）3月28日、道路機能と歩道機能は新しい道路橋に移され、旧橋は同日から鉄道専用橋として運用されることになりました。

鉄道道路併用が解消された後、名鉄は鉄道専用となった橋の改修工事を実施しました。線路を一時的に単線使用とするなどして、上下線間隔の拡幅、旧道路施設の撤去、および列車の運行速度向上に向けた改良工事を行い、2001年（平成13年）10月1日に工事を完了しました。この改修により、鉄道橋の輸送力が向上し、隣接する新鵜沼駅に犬山遊園駅方面へ折り返すためのホームが増設されたことと相まって、名鉄犬山線のダイヤ編成や運用効率の改善に大きく貢献しました。

長年にわたり地域交通の要として、また併用橋という珍しい形態で知られてきた犬山橋の鉄道橋は、その歴史的・技術的価値が認められ、2024年（令和6年）9月に土木学会選奨土木遺産に認定されました。

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