福海寺

福海寺：歴史と信仰が織りなす神戸の古刹

兵庫県神戸市兵庫区西柳原町に鎮座する福海寺は、臨済宗南禅寺派に属する由緒ある寺院です。室町時代初期、1344年（康永3年）に足利尊氏によって創建されました。創建に際しては、京都西賀茂の正伝寺から在庵円有禅師が招聘されました。在庵円有禅師は、現在の兵庫県たつの市御津町室津の出身で、その深い霊性と学識は多くの参禅者を集め、福海寺は瞬く間に名刹として知られるようになりました。

兵庫津の要衝、そして信仰の中心地

明治初期まで、福海寺は堀と土塁に囲まれた枡形を構成し、兵庫津（兵庫城）の柳原総門の防衛を担っていました。この地が戦略的に重要な拠点であったことを示す、歴史的証左と言えるでしょう。

本尊は釈迦如来ですが、境内には大黒天が祀られており、地元では「柳原大黒天」として信仰を集めています。毎年1月9日から11日にかけて行われる「柳原十日えびす大祭」では、大黒祭が催され、多くの参拝客で賑わいます。この大黒天信仰は、足利氏ゆかりの信仰と、在庵円有禅師の出身地である室津、そして賀茂氏との深い関係に由来すると言われています。室津、西賀茂の正伝寺、そして京都久我の願王寺（久我神社の神宮寺）は、いずれも賀茂信仰と強い結びつきを持ち、福海寺は「賀茂信仰の街道」の中継地として重要な役割を果たしていたと考えられています。

在庵円有禅師：福海寺の開山

福海寺の開山である在庵円有禅師は、俗姓を賀茂氏といい、播磨国室津の出身です。京都西賀茂正伝寺の法位円性禅師の法嗣であり、鎌倉建長寺二世の兀庵普寧禅師の四世の法孫にあたります。当初は正伝寺で修行していましたが、足利尊氏の要請を受け、福海寺を開山しました。

在庵円有禅師の優れた道徳心と学識は、多くの僧侶や学者を惹きつけました。そのため、福海寺の法堂は「雲會堂」と名付けられました。また、「大光山福海寺」という寺号は、足利尊氏が兵庫の針ヶ崎観音堂に逃れ、その後九州に落ち延び、再び兵庫に上陸して幕府を開いたという歴史に因んでいると考えられています。「福の海」という尊氏にとっての兵庫の海、観音信仰の「福聚海無量」といった意味合いの他に、同じ宗覚派で鎌倉和賀江に存在したものの廃寺となった「福光山聖海寺」の復興という意味合いも込められているとも考えられています。

在庵円有禅師は貞和5年11月21日に遷化、享年84歳でした。その遺偈は「八十四年　笑倒祖佛　一句臨行　寒嵐払払」と伝わっています。

宗覚派の法系と福海寺

在庵円有禅師の法系は「宗覚派」として知られ、その系譜は兀庵普寧禅師にまで遡ります。在庵円有禅師の法嗣である無價掌珍禅師は、京都五山萬寿寺や筑前聖福寺の住持も務めました。無價掌珍禅師が足利義満の命を受け、博多聖福寺に住した可能性も示唆されています。当時の禅僧は外交官としての役割も担っており、日明貿易を行なっていた足利義満の命により、無價掌珍禅師が福海寺と博多聖福寺という日明貿易（勘合貿易）の拠点となる地に住職したことは、歴史的に特筆すべき点でしょう。

摂津国の禅刹と福海寺

福海寺は、摂津国の五山十刹制度において「諸山」格に位置付けられていました。このことは、福海寺が幕府公認の禅宗寺院として高い格式を有していたことを示しています。周辺には、宝満寺、廣厳寺、福厳寺、禅昌寺など、同じく摂津国の禅刹が存在していました。

足利氏と大黒天信仰

足利氏は大黒天を厚く信仰しており、足利氏の発祥の地である栃木県足利市の鑁阿寺にも大黒天が祀られています。福海寺の大黒天信仰も、この足利氏との深い繋がりを示していると言えるでしょう。

アクセスと関連情報

福海寺へのアクセスは、山陽本線（JR西日本）兵庫駅から徒歩5分、または阪神神戸高速線大開駅から徒歩10分です。また、福海寺は「兵庫七福神めぐり」の巡拝寺院の一つとしても知られています。

福海寺は、歴史、信仰、そして地理的条件が複雑に絡み合った、魅力的な寺院です。その歴史と文化に触れることで、神戸の歴史の一端を垣間見ることができるでしょう。

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