箱石シツイ

箱石シツイ：百歳を超えて輝く、世界最高齢の現役理容師

箱石シツイさんは、1916年11月10日、栃木県那須郡大内村（現在の那珂川町）に生まれました。農家を営む両親のもと、5人兄弟の4番目として育ちました。幼少期は「シズエ」と呼ばれていましたが、訛りが原因で戸籍上は「シツイ」として登録されたそうです。

関東大震災、奉公、そして理容師への道

1923年、7歳の時に発生した関東大震災では、自宅の竹藪に避難した経験があります。その後、祖父の借金返済のため、村長宅へ2年間奉公に出ました。1931年に上京し、東京の理容院で見習いとして働き始めます。いくつかの店を経て、1936年に理容師試験に合格。銀座や四谷の理容店で腕を磨きました。

結婚、戦争、そして夫の死

「ライト」勤務時代に出張調髪で知り合った女性の紹介で、2歳年上の理容師・箱石二郎さんと1939年に結婚。同じ年に、新居兼理髪店「ヒカリ」をオープンしました。店名は以前勤務していた「ライト」に由来します。1940年には長女・充子さんが誕生しますが、充子さんは一歳の時に病気を患い、重度の脳性麻痺となりました。1943年には長男・英政さんが生まれています。

1944年、夫・二郎さんに召集令状が届き、出征。シツイさんは故郷へ疎開しますが、1945年の東京大空襲で自宅が焼失。終戦直後の8月19日、二郎さんは満州で戦死してしまいます。

戦後の苦難、そして理容店再開

終戦後、シツイさんは葉たばこの乾燥場で簡易理髪店を開き、生活を支えました。1953年、夫の戦死の報せを受け、一家心中を図るも未遂に終わります。同年8月13日、古家を改装し「理容ハコイシ」を再開。東京で培った技術が評判を呼び、店は繁盛しました。

東日本大震災、聖火ランナー、そして世界最高齢へ

2011年、東日本大震災が発生。関東大震災と合わせて2度の大震災を経験しました。2019年からは長男夫婦と同居を始め、同年には初めての講演会も行いました。2020年東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれ、1年延期後、2021年3月28日に雨の中、聖火リレーを完遂。104歳という大会最高齢ランナーとして注目を集めました。

2024年1月には、世界最高齢の現役理容師として認定。さらに2025年3月には、ギネス世界記録にも認定されました。特別養護老人ホームに入所後も、予約があれば理容室に戻り、腕を振るっています。

家族の支え

脳性麻痺を抱える長女・充子さんは、自立を目指し授産所で働いた後、障害者の自立生活運動に尽力。NPO法人を設立し、自立生活を支援しています。長男・英政さんは、美容師免許を持ち、シツイさんのカットを担当。自身とシツイさんの半生を記した書籍を出版しています。

箱石シツイさんの著書

* 108歳の現役理容師おばあちゃん ごきげん暮らしの知恵袋（2024年11月11日、宝島社）

箱石シツイさんは、激動の時代を生き抜き、困難を乗り越えながら、理容師として輝き続けています。その姿は、多くの人々に勇気と希望を与え続けています。

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