純文学

純文学とは

純文学（じゅんぶんがく）は、大衆小説が娯楽性を重視するのに対し、芸術性に焦点を当てた作品を指します。この概念は、日本の文学において特有の位置を占めており、特に明治から昭和にかけて多くの著名な作家たちによって発展してきました。

日本における純文学の始まり

日本の近代文学の幕開けと見なされるのは、二葉亭四迷の『浮雲』（1887年 - 1889年）です。この作品は、当時の社会が抱える苦悩や葛藤をテーマに、言文一致の文体を用いて描いています。とはいえ、彼自身はこの作品に満たされず、長らく執筆から離れることになります。このように、純文学は誕生当初から作家自身の思想や感情を反映したものでありました。

純文学という言葉は、明治時代の批評家・北村透谷によって「学問的でなく、美を追求する文学」として定義されました。この時期の純文学は、現代の「文学」とほぼ同義と言える状態でした。

自然主義と私小説の流れ

明治後期には、島崎藤村や田山花袋、徳田秋声といった作家たちが自然主義文学を展開し、社会の負面に目を向けることで注目を浴びました。田山の『蒲団』（1907年）は私小説の先駆けとされ、自身の周りの日常を描いた作品です。一方、島崎の『破戒』（1906年）は部落問題を扱い、社会問題を意識した作品として評価されます。こうした文学は、後の白樺派の人道主義に通じ、プロレタリア文学への道を開くこととなります。

大正期に入ると、自然主義の暗さから脱却を目指し、武者小路実篤や志賀直哉などが白樺派として登場しました。志賀の『城の崎にて』（1917年）では、作為を排した写生文が後の私小説の基盤とされています。

反自然主義と文体の変化

また、反自然主義の一環として、耽美派の作家たち、永井荷風や谷崎潤一郎らは、江戸文芸やモダニズムに影響を受けた作品を数多く発表しました。谷崎の独特の文体は、森鷗外の簡潔な表現と対照的であり、読者を魅了する独自の世界を築き上げました。

昭和の新たな流れ

昭和に入ると、新現実主義を提唱する作家たちが現れ、特に芥川龍之介は自らの立場を明確にしました。彼は『文芸的な、余りに文芸的な』（1927年）で、小説の芸術的価値とその楽しさは必ずしも一致しないと主張し、同時に大衆小説との違いを印象付けました。戦後には、太宰治や坂口安吾が無頼派として名を馳せ、さまざまな文学様式が展開されることとなったのです。

近年の動向

1980年代以降、純文学と大衆小説の境界は曖昧になり、多くの作家が異なるジャンルを跨いで作品を発表しています。具体的には、村上春樹をはじめとする作家たちが、その多様性を背景に新しい文学の形を提示し続けています。また、1990年代の純文学論争以降、文学フリマなどが誕生し、文学の新たな流通の場を確立していく流れも見られます。

このように、純文学はただの物語ではなく、作家の哲学や社会的背景を映し出す鏡としての側面を持ち続けています。

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