菜種油

菜種油とキャノーラ油：歴史、生産、そして用途

菜種油は、セイヨウアブラナから採取される植物油脂で、古くから灯火や食用として利用されてきました。しかし、従来の菜種油には、エルカ酸とグルコシノレートという二つの課題がありました。エルカ酸は過剰摂取により心臓病などのリスクを高める有害脂肪酸であり、グルコシノレートは甲状腺障害の懸念がありました。そのため、米国では1985年まで食用が規制されていました。

食用上の課題とキャノーラ油の誕生

従来の菜種油は、エルカ酸を40％以上含むこともありました。エルカ酸の含有量は、品種によって25～48％、オレイン酸13～51％、リノール酸20～27％、リノレン酸8～16％と変動します。また、グルコシノレートは120種類以上の含硫化合物からなり、特にゴイトリンという甲状腺腫を誘発する物質の前駆体が多く含まれていました。これらの健康リスクが、菜種油の食用への懸念につながっていました。

こうした問題を解決するため、1974年にカナダでエルカ酸とグルコシノレートの含有量を大幅に減らした「ダブルロー」品種のキャノーラが開発されました。この品種改良により、健康への懸念が払拭され、キャノーラ油は安全な食用油として世界的に普及するようになりました。カナダでは、エルカ酸2％以下、グルコシノレート（油粕）30μmol/g以下をキャノーラの基準としています。

キャノーラ油の脂肪酸組成は、オレイン酸約60％、リノール酸21～32％、α-リノレン酸9～15％、パルミチン酸約5％、ステアリン酸約2％、エルカ酸1％未満と、理想的なバランスを保っています。ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率も1:2と、心臓病予防の観点からも優れた組成です。

生産と流通：世界規模の産業

2014年時点での世界の菜種油生産高は約2600万トンで、中国、ドイツ、カナダが主要生産国です。カナダは生産高の約94％にあたる290万トンを輸出する、最大の輸出国となっています。世界的な植物油生産量では、パーム油、大豆油に次いで3番目です。日本では、食用油の約6割を菜種油が占めています。

近年では、遺伝子組換え技術を利用した品種が主流となっており、特にカナダ産のキャノーラ油は世界中に輸出されています。ただし、日本では菜種油に遺伝子組換え食品の表示義務はありません。

2019年には、中国がカナダ産キャノーラの輸入を一時停止する事件が発生しました。これは、カナダにおけるファーウェイ幹部の逮捕に対する報復措置ではないかとの見方もありました。この輸入停止は、カナダ経済に大きな影響を与えました。

世界の菜種油取引の標準価格は、ICEフューチャーズ・カナダ（旧ウィニペグ商品取引所）のキャノーラ先物取引価格で決定されます。

用途：食用から燃料まで

菜種油は、食用油として広く利用されています。白絞油は揚げ物、炒め物などに使用され、焙煎して搾油した赤水や赤湯は、独特の風味を生かした揚げ油として用いられます。

近年では、バイオディーゼル燃料としての需要も増加しています。燃料用途では、多くの国で硫黄含有量が規制されています。日本では江戸時代から灯明油として利用され、現在でも神社仏閣で菜種油の灯明が用いられています。

その他、整髪料の鬢付け油の主原料としても使用されています。また、日本薬局方にも収載されています。

まとめ

菜種油は、歴史と伝統に裏打ちされた食用油であり、現在では世界規模の産業となっています。エルカ酸やグルコシノレートの問題を克服したキャノーラ油の開発は、その歴史における重要な転換点でした。今後も、食用油として、そしてバイオ燃料としての役割を担っていくでしょう。

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