パルミチン酸

パルミチン酸：人体を構成する主要な脂肪酸

パルミチン酸は、飽和脂肪酸として知られる有機化合物です。化学式はCH₃(CH₂)₁₄COOH、IUPAC名はヘキサデカン酸で、炭素数16の直鎖状の脂肪酸です。エーテルやベンゼンには溶けますが、エタノールには溶けにくい性質を持っています。

パルミチン酸の遍在性と多様な用途

パルミチン酸は、自然界に広く分布しています。動物性脂肪や植物油に多く含まれ、特にパーム油、ヤシ油、乳製品、肉、母乳などに豊富に存在します。ラードやヘットにも含まれており、木蝋中にはパルミチン（パルミチン酸のグリセリド）として含まれています。

この脂肪酸の多様な用途は、その特性に由来します。化粧品においては、保湿剤や界面活性剤の成分として利用され、肌の保護に役立つとされています。また、食品添加物としても使用され、ビタミンなどの抗酸化物質の安定化に寄与します。例えば、パルミチン酸レチノールやビタミンC誘導体は、パルミチン酸と結合することで安定性を高めています。

生体内における役割と重要性

人体において、パルミチン酸は細胞膜の主要構成成分として、細胞の構造維持に重要な役割を果たしています。皮脂として分泌されることで、肌の保護バリア機能に貢献します。さらに、栄養分の体内循環にも関与し、エネルギー源としても利用されます。人体を構成する脂肪酸の中で、パルミチン酸は20～30％を占め、最も豊富に存在する脂肪酸の一つです。汗腺や皮脂腺からの分泌物にも多く含まれており、その割合は30～40％にも及ぶとされています。

近年、シャンプーなどの洗浄剤に含まれる界面活性剤が、肌の油分を過剰に除去することで肌荒れを引き起こすことが懸念されています。しかし、パルミチン酸やステアリン酸などの飽和長鎖脂肪酸を洗浄剤に添加することで、肌の油分を補い、バリア機能の改善に繋がると期待されています。

マルラオイルは、アフリカ諸国で伝統的に保湿剤として使用されてきた植物油です。その主要な脂質成分として、オレイン酸（約69％）とパルミチン酸（約15％）が含まれています。研究によると、マルラオイルを皮膚に塗布することで、皮膚の水分含有量が増加し、保湿効果が確認されています。一方、動物実験では、不飽和[[脂肪酸]]であるオレイン酸やパルミトレイン酸は角化細胞の異常角化を引き起こす可能性が示唆されていますが、飽和脂肪酸であるパルミチン酸とステアリン酸ではそのような現象は観察されていません。

パルミチン酸の生成と代謝

パルミチン酸は、植物、微生物、動物の体内において、脂肪酸合成酵素によって生成されます。アセチルCoAとマロニルCoAを基質として、順次アセチルCoAが加わることで合成され、通常は炭素数16で合成が終了します。体内で余剰の糖質やタンパク質が存在する場合、アセチルCoAを介してパルミチン酸の合成が促進されます。

生成されたパルミチン酸は、必要に応じて他の脂肪酸に変換されます。例えば、長鎖脂肪酸伸長酵素によって炭素数が2つ増え、ステアリン酸（18:0）になります。ステアロイルCoA9-デサチュラーゼによってステアリン酸のw9位に二重結合が導入され、オレイン酸（18:1）が生成されます。オレイン酸への変換は、脂肪酸の融点を下げ、体温環境下での脂肪酸の流動性を高める働きがあります。

関連物質

パルミチン酸に関連する物質として、セタノール（パルミチルアルコール）が挙げられます。これは、パルミチン酸のカルボキシ基が還元されて水酸基に置換された化合物です。また、ナパーム弾は、ナフサとナフテン酸アルミニウムと共にパルミチン酸が使用されていますが、こちらは軍事用途に関連し、倫理的な問題を含むため詳細は割愛します。

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