ステアリン酸

ステアリン酸：性質、用途、健康への影響

ステアリン酸 (octadecanoic acid, 18:0) は、動物や植物性脂肪に豊富に含まれる飽和脂肪酸の一種です。高級脂肪酸に分類され、常温では白色の固体として存在します。融点は69.9℃、沸点は376℃（分解）と、比較的高い融点を持つことが特徴です。

分子の構造と特性

ステアリン酸分子は、親水性のカルボキシル基(-COOH)と疎水性の炭化水素鎖(C17H35)から構成されています。この両親媒性の性質により、水面や油面上において、分子が1層に配列した単分子膜（ラングミュア膜）を形成します。この性質は、界面活性剤としての利用に繋がっています。ロウソクの原料として利用されるのも、この性質と高い融点によるものです。

体内での生成と代謝

ヒトを含む動物の体内では、アセチルCoAとマロニルCoAから脂肪酸シンターゼによってステアリン酸が合成されます。まず、炭素数16のパルミチン酸が合成され、その後、長鎖脂肪酸伸長酵素によって炭素数が2つ増加し、ステアリン酸になります。

ステアリン酸は、体内でステアロイルCoA 9-デサチュラーゼによりオレイン酸に変換されます。この変換により、脂肪酸の融点が下がり、体温下での流動性が向上します。体内で余剰の糖質やタンパク質が存在する場合、これらの栄養素がアセチルCoAを経てステアリン酸の合成に利用される傾向があります。

健康への影響

ステアリン酸は、シャンプーなどの洗浄剤に含まれる界面活性剤によって失われた肌の油分を補う役割を果たします。肌のバリア機能を改善し、乾燥や刺激による痒みを軽減する効果が期待されます。しかし、過剰な摂取は、血中コレステロール値の上昇などのリスクも指摘されており、バランスの取れた食事が重要です。

誘導体と用途

ステアリン酸は様々な誘導体を持ち、幅広い用途に使用されています。

ステアリン酸ナトリウム

石鹸や洗剤の原料として広く利用されています。その界面活性作用により、汚れを落とす効果を発揮します。

ステアリン酸カルシウム

水への溶解度が低く、金属石鹸の一種です。石鹸カスに含まれる成分でもあります。食品添加物として、滑剤、離型剤、増粘安定剤、固結防止剤、あるいはフレーバー付与補助剤として使用されます。また、医薬品では錠剤の滑剤として用いられ、日本薬局方にも収載されています。粉体の流動性向上や固結防止剤としても利用されています。

歴史

ステアリン酸の研究において、ミシェル＝ウジェーヌ・シュヴルールは重要な役割を果たしました。彼は脂肪酸の研究者であり、ステアリン酸を含む多くの脂肪酸の命名に貢献しました。

まとめ

ステアリン酸は、その両親媒性の性質、高い融点、そして体内での代謝経路から、多様な用途を持つ重要な脂肪酸です。ロウソクから洗剤、医薬品まで、私たちの生活に深く関わっています。しかし、健康への影響についても理解を深め、バランスの取れた生活を心がけることが大切です。

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