萬古焼

萬古焼：三重の伝統と革新が織りなす焼き物

萬古焼は、三重県四日市市を中心に生産される、土鍋をはじめとする陶磁器です。その歴史は江戸時代中期にまで遡り、現在も日本の土鍋市場において約8割のシェアを占める、日本を代表する焼き物の一つと言えるでしょう。

萬古焼の特徴：耐熱性と多様な製品

萬古焼の最大の特徴は、その高い耐熱性です。原料に葉長石（ペタライト）を使用することで、陶器と磁器の中間的な性質を持つ半磁器（炻器）となり、急激な温度変化にも強い製品が生まれます。この耐熱性を活かし、古くから土鍋が主力製品として親しまれてきました。

しかし、萬古焼の魅力は土鍋だけではありません。紫泥を用いた急須や、愛嬌のある豚の形をした蚊遣器「蚊遣豚」など、多様な製品が作られています。それぞれの製品には、長年の技術と創意工夫が凝縮されていると言えるでしょう。

歴史：桑名から四日市へ、そして世界へ

萬古焼の起源は、江戸時代中期、桑名の豪商・沼波弄山による創始にまで遡ります。弄山は「萬古」というブランド名で、京焼を模倣した茶碗などを制作しました。その後、一時的に衰退するものの、幕末期に四日市で再興され、明治時代には地場産業として確固たる地位を築きました。

四日市での萬古焼は、山中忠左衛門らの尽力により発展しました。当初は赤土を使用していたため、輸出向けの白地食器の生産には苦労しましたが、各地からの陶土・陶石の移入や、朝鮮からの陶土の取引開始などを通して、技術革新を進めていきました。

第二次世界大戦前には、生産量の60%がアメリカ合衆国へ輸出されるほど盛況を極めました。しかし、関税引き上げや戦争による輸出途絶など、幾多の困難を乗り越えてきました。戦後の復興期には、家庭へのガスコンロ普及に伴う土鍋の割れ問題にも直面しましたが、1959年頃にはペタライトを混ぜることで熱膨張しにくい土鍋の開発に成功し、シェアを拡大しました。

近年の課題と未来

近年、萬古焼は原料価格の高騰という新たな課題に直面しています。ペタライトに含まれるリチウムが、リチウムイオン電池の需要拡大によって高騰していることが原因です。主要なペタライト供給源であったジンバブエの鉱山が中国企業に買収されたことも、状況を複雑にしています。

萬古焼陶磁器工業協同組合や各窯元は、原料の確保に向けて、ジンバブエへの輸出継続要請、カナダへの輸出打診、シリカやコージライトなどの代替原料の開発など、様々な取り組みを行っています。しかし、代替原料を使用した場合、従来の風合いの再現や製法の変更などが課題となっています。

それでも、萬古焼は伝統を守りながら、常に技術革新に挑戦し続けています。その未来は、原料確保の問題だけでなく、新たなデザインや技術の開発、そして消費者のニーズへの対応にかかっています。長きに渡り受け継がれてきた伝統と技術、そして未来への挑戦が、萬古焼のさらなる発展を支えていると言えるでしょう。

参考文献

入間市博物館「急須のできるまで」
鹿嶋洋（2007年）"北勢"『日本の地誌7 中部圏』
四日市市 編『四日市市 第18巻 通史編近代』
萬古陶磁器振興会「四日市萬古焼史」

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