薬研藤四郎

薬研藤四郎について

薬研藤四郎は、鎌倉時代に活躍した刀工、藤四郎吉光によって作られたとされる短刀です。吉光は山城国粟田口派の刀工の中でも特に名高く、短刀や剣の名手として知られていました。本刀は、その卓越した技術によって鍛えられた名刀として、歴史に名を残しています。また、薬研通吉光（薬研徹しとも）と呼ばれる刀剣と同一である可能性も指摘されています。

歴史と伝承

薬研藤四郎の最初の持ち主については諸説ありますが、室町時代の守護大名、畠山政長であったとする説が有力です。名前の由来は、政長が敗戦の際に自害しようとした際、この刀が腹に刺さらず、投げ出したところ近くにあった薬研を貫いたという逸話に由来します。

その後、薬研藤四郎は足利将軍家、松永久秀へと渡り、元亀2年には久秀から織田信長に贈られました。信長は、この刀を大変気に入っていたとされ、津田宗及が信長のもとを訪れた際に、本作を見せられたという記録も残っています。

しかし、本能寺の変で焼失したという説が有力であるものの、別の説では信長から豊臣秀吉、その息子の秀頼へと受け継がれ、慶長16年に徳川家康に献上されたとも言われています。また、徳川将軍家が所持したという説もありますが、詳しい消息は不明です。江戸時代に編纂された名刀の目録『享保名物帳』では、焼失した刀剣として扱われています。

作風の特徴

薬研藤四郎の刀身は、刃長が約25.1センチメートル、平造りで直刃が特徴です。目釘穴は一つあり、吉光の銘が刻まれています。切先の刃文は、横の筋から切先に向けて小さな円を描く「小丸に返る」と呼ばれる形状をしています。

外装にも特徴があり、鎺（はばき）や柄の頭、縁は金で作られています。鞘は約34.8センチメートルの黒塗りで、腰には縄の模様が刻まれた金が巻かれています。笄（こうがい）は桃山時代以前の後藤家（古後藤）の作とされ、赤銅の胴に壺桐の紋が入り、鐔の端（耳）は金で装飾されています。

現代における復元

現存しない薬研藤四郎ですが、その姿を現代に蘇らせようという試みが行われています。2016年冬には刀鍛冶の水木良光が再現刀の作刀を依頼され、翌年の夏に完成させました。水木は、『太閤御物刀絵図』を参考に、刀の長さや幅などを正確に割り出し、忠実に再現しています。また、同時期に別の刀匠によって再現された薬研藤四郎も建勲神社に奉納されています。

まとめ

薬研藤四郎は、その優れた作刀技術と、数々の武将の間を渡り歩いた歴史ロマンを持つ、まさに幻の名刀と言えるでしょう。現存はしていませんが、その伝説は今も語り継がれ、現代の刀鍛冶たちによって、その姿が再現され続けています。

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