貸金業務取扱主任者

貸金業務取扱主任者とは

貸金業務取扱主任者（かしきんぎょうむとりあつかいしゅにんしゃ）とは、貸金業法に基づき、貸金業を営む上で必要となる専門資格です。この資格は、国家試験である貸金業務取扱主任者資格試験に合格し、内閣総理大臣の登録を完了した者に与えられます。2010年6月18日より、それまでの民間資格から国家資格へと移行しました。

制度の概要

貸金業者は、事業所ごとに、その規模に応じて一定数の貸金業務取扱主任者を配置することが義務付けられています。具体的には、貸金業務に従事する従業員50人につき1人以上の主任者を配置する必要があります。この制度は、2003年の貸金業法改正により創設され、2009年6月から国家資格試験が開始されました。

制度の変革

2005年、金融庁の有識者による「貸金業制度等に関する懇談会」で、貸金業制度のあり方や法改正の方向性について議論されました。この中で、貸金業務取扱主任者制度についても議論が交わされ、国家資格化への流れが決定しました。懇談会では、違反業者の代表者の若年齢化や知識不足が問題視され、資格試験の厳格化が求められました。具体的には、以下のような意見が挙げられました。

安易な参入を防ぐため、資格を厳格化すべき
試験制度を導入し、一定のスクリーニング効果を期待すべき
資格取得をコンプライアンス向上に繋げるべき

貸金業務取扱主任者の役割

貸金業務取扱主任者の主な役割は、以下の通りです。

営業所内で、貸金業に関する法令を遵守するための助言や指導を行う
従業員に対して、法令遵守の徹底を指導する
顧客からの苦情や問い合わせに対応する
内部管理体制の整備を推進する

主任者は、コンプライアンスオフィサーとしての役割を担い、貸金業の健全な運営を確保する上で重要な存在です。

主任者が管理すべき事項

主任者は、以下の事項を管理し、貸金業の適正な運営を維持する責任があります。

法令遵守（コンプライアンス）体制: 法令や社内規則を厳格に遵守し、健全な業務運営に努める。
顧客情報の管理: 顧客情報の漏洩を防ぎ、適切に取り扱う。
外部委託: 外部委託に伴うリスクを管理し、業務の適切な運営を確保する。
本人確認、疑わしい取引の届出: 犯罪収益移転防止法に基づき、本人確認や疑わしい取引の届出を行う。
反社会的勢力による被害の防止: 反社会的勢力との関係を遮断し、被害を防止する。
苦情対応態勢: 顧客からの苦情に迅速かつ適切に対応する。
不祥事件に対する監督上の対応: 法令違反や不正行為が発生した場合、適切な対応を行う。
業務の透明性の確保: 業務方法の変更や不祥事発生時、顧客に対し正確な情報を提供する。

貸金業者の義務

貸金業者は、貸金業務取扱主任者が職務を適切に遂行できるよう配慮する義務があります。また、従業員は主任者の助言を尊重し、その指導に従わなければなりません。

貸金業務取扱主任者試験

試験概要

受験資格: 学歴、年齢、性別、国籍などの制限はありません。
試験日: 年1回、11月下旬頃に実施されます。
試験地: 全国17地域で実施されます。
受験手数料: 8,500円
試験方法: 筆記試験（四肢択一式）
試験時間: 2時間
出題範囲: 貸金業法、利息制限法、民法、商法、消費者契約法、個人情報保護法など、幅広い法令と実務に関する知識が問われます。

出題範囲

1. 法及び関係法令に関すること
貸金業法、同施行令、同施行規則
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
利息制限法
貸金業者向けの総合的な監督指針
事務ガイドライン（金融庁）
貸金業の業務運営に関する自主規制基本規則
苦情処理及び相談対応に関する規則
2. 貸付け及び貸付けに付随する取引に関する法令及び実務に関すること
民法、商法、会社法、保険法、手形法、小切手法、電子記録債権法、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律、不正競争防止法
民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律、民事調停法
破産法、民事再生法、会社更生法、特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、犯罪による収益の移転防止に関する法律、刑法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律
3. 資金需要者等の保護に関すること
個人情報保護法、金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
消費者契約法
不当景品類及び不当表示防止法
4. 財務及び会計に関すること
家計診断、個人の所得と関係書類、財務会計、企業会計

合格率・合格基準点

合格率は試験回によって変動しますが、おおむね30%前後の難関資格となっています。合格基準点は、原則として全体の7割以上の得点が必要です。

主任者登録

登録手続き

資格試験合格後、内閣総理大臣に対して主任者登録を申請する必要があります。登録手続きは、日本[[貸金業協会]]が行います。

登録には約2ヶ月の期間を要し、登録完了後には登録証が交付されます。

登録拒否要件

以下のいずれかに該当する場合は、主任者として登録することができません。

心身の故障により職務を適切に行うことができない者
破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者
過去に貸金業登録を取り消された者
禁錮以上の刑に処せられた者
貸金業に関する法令に違反し罰金刑に処せられた者
暴力団員等
過去に主任者登録を取り消された者
貸金業に関して不正または不誠実な行為をするおそれがあると認められる者

登録の有効期間と更新

主任者登録の有効期間は3年間です。登録を更新するためには、有効期間満了前に更新申請を行い、登録講習を受講する必要があります。

登録の取消し・抹消

以下の事由に該当する場合、主任者登録が取り消される、または抹消されます。

登録拒否要件に該当した場合
不正な手段で登録を受けた場合
資格試験で不正行為があった場合
職務に関して法令違反があった場合
登録有効期間が満了した場合
本人から抹消申請があった場合
死亡した場合

研修

かつては、貸金業務取扱主任者研修が実施されていましたが、現在は国家試験による資格取得に一本化されています。研修制度は、2010年6月17日をもって廃止されました。移行措置はなく、研修修了者も国家試験に合格する必要がありました。

貸金業の定義と必置業態

貸金業とは、金銭の貸付けや貸借の媒介を業として行うことを指します。貸金業法は、消費者金融業者、金融の貸借の媒介業者、手形割引業者、不動産担保金融業者、質屋、クレジットカード会社、信販会社、総合リース会社など、幅広い業態を対象としています。

設置基準

貸金業者は、営業所または事務所ごとに、貸金業務取扱主任者を設置する必要があります。主任者は、原則として当該営業所に常時勤務する必要がありますが、無人店舗の場合には、この限りではありません。主任者の設置数は、従業員数に応じて定められています。

営業所又は事務所の定義

営業所又は事務所とは、貸金業者が貸付けに関する業務を継続して行う施設や設備を指します。これには、自動契約機や現金自動設備も含まれます。

まとめ

貸金業務取扱主任者は、貸金業の健全な発展に不可欠な存在です。国家資格化により、その専門性と責任はより一層高まっています。貸金業務取扱主任者の役割を正しく理解し、制度を適切に運用することで、貸金業に対する社会的な信頼を維持することができます。

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