近親相愛

近親相愛

「近親相愛」という言葉は、主に二つの意味合いで用いられています。一つは、作家・五島勉が1972年に海潮社から出版した書籍の題名としての用法。もう一つは、血縁的あるいは法的に近い関係にある者同士が、性的な愛情を抱いたり関係を持ったりすることを指す俗語としての用法です。

五島勉氏の著書『近親相愛』は、当時の社会においてタブー視されていた近親相姦という主題に深く切り込んだ作品でした。本書では、具体的な事例がいくつか紹介されています。例えば、突如両親を失った悲しみと寂しさから、当時高校生だった兄に対して身体的な接触を求めるようになった、年下の妹が抱える葛藤や心の叫びが取り上げられています。妹は「私は悪いことをしているのだろうか」という切実な問いを投げかけます。また、本書は現実から遊離した事例も扱っており、例えば、実の妹はいないにも関わらず、想像上の可憐な妹との相思相愛を思い描く男性のケースや、夫として存在しない兄を求め、幻想の中でその存在に翻弄される既婚女性の空想などが記述されています。

本書の特筆すべき点の一つに、近親相姦の発生率に関する調査結果の報告があります。女性週刊誌の協力を得て実施されたこの調査では、1229人の女性から回答が集められました。その分析に基づき、回答者のうち約4.7%が、過去に近親相姦を経験したか、あるいはそれに極めて近い状況に至ったと推定されるという報告がなされました。この調査を行うにあたっては、回答者の心理的な負担を軽減し、より正確な情報を得るための工夫が凝らされました。具体的には、近親相姦に関する直接的な質問のみを連続させることを避け、他の様々な質問を挟み込む形式が採用されました。さらに、可能な限り電話や面接といった対話形式で話を聞く手法も取り入れられました。この五島勉氏による古い時代の調査報告は、その後の近親相姦に関する研究においても参照されることがあります。例えば、2001年に原田武氏が著した『インセスト幻想—人類最後のタブー』の中でも、本書の調査データが参考にされたことが記されています。

しかし興味深いことに、本書を発表した翌年には、五島勉氏はその後の代表作となる『ノストラダムスの大予言』（祥伝社）を執筆しています。これ以降、五島氏は近親相姦や性的なトピックから距離を置き、予言やオカルトといった分野の著述家として広く知られるようになりました。『近親相愛』は、五島氏の初期の活動における一側面を示すとともに、当時の日本社会における近親相姦というテーマへの関心や、それに関する数少ない調査資料の一つとして、歴史的な価値を持つ文献と言えます。

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