逆探知

逆探知とは

逆探知（ぎゃくたんち）とは、受け取った電話やその他の通信の発信源を、伝送経路を逆にさかのぼることで突き止める技術や操作を指します。

日本における利用

日本では、犯罪捜査の一環として逆探知が用いられることがあります。特に、誘拐、恐喝、脅迫、ストーカー被害など、犯人側から被害者に電話がかかってくる場合に利用されます。犯人の発信元を特定し、その場所を突き止めるために、被害者の同意を得た上で、捜査機関が電気通信事業者に対して逆探知を要請します。発信元の特定は、犯人の割り出しや逮捕につながる重要な情報となり、事件解決のための有効な手段の一つとなります。

歴史的経緯と技術の変遷

アナログ交換機時代

日本で逆探知が犯罪捜査に活用されるようになったのは、1963年に発生した吉展ちゃん誘拐殺人事件が大きな契機でした。当時、国内の電話サービスを担っていた日本電信電話公社（現在のNTT）は、利用者の通信内容や発信元に関する「通信の秘密」を守る義務を理由に、当初は捜査当局による逆探知への協力を認めませんでした。これにより、犯人が被害者家族にかけた電話の発信元をすぐに調べることが困難でした。

しかし、警視庁からの強い要請を受け、事件発生から約1ヶ月後に郵政大臣の通達が出され、公社は捜査協力に方針転換しました。さらに約半年後の10月4日には、閣議において「受信者が了解しており、脅迫者特定を目的とする逆探知であれば、通信の秘密を侵害しない」との見解が示され、条件付きで逆探知の犯罪捜査への利用が公式に認められることとなりました。

以後、逆探知は誘拐事件にとどまらず、1965年の恐喝未遂事件のように、他の犯罪捜査にも拡大して利用され、容疑者の検挙に貢献した記録も残されています。

初期のアナログ交換機、特にステップ・バイ・ステップ交換機が主流だった時代には、着信側から発信側へと経由する交換機をオペレーターが目で追跡する必要がありました。このため、回線をたどるのに時間を要し、犯人が長時間通話していなければ発信元を特定するのが困難でした。また、一部の特殊な回線経路を通過すると、追跡作業が複雑になることもありました。

しかし、電話回線の増加と技術の進歩に伴い、クロスバー交換機のような近代的なシステムが導入され、収容局内の設備が一体化されると、逆探知の精度と速度は飛躍的に向上しました。

なお、テレビドラマなどで描かれる、被害者宅に設置され、捜査員が操作している装置は、多くの場合、通話の録音や複数の人間が会話を聞くための機器であり、それ自体が回線を追跡する「逆探知装置」ではありませんでした。実際の発信元追跡は、捜査機関の要請を受けた通信事業者が、自社の交換機の記録を調べて行っていました。

デジタル交換機時代

電話交換機がデジタル化された現代では、通話に関するデータが自動的に詳細な通話記録として保存されるようになりました。これにより、通話が終了した後であっても、その記録を参照することで発信元を正確に特定することが可能になっています。

携帯電話の場合も、発信元の電話番号や契約者情報などが記録されるため、契約者を特定することは可能です。しかし、携帯電話は固定されていないため、厳密な発信場所を pinpoint で特定することは難しく、通信した基地局の情報からおおよその位置を推定することになります。

電話をかける際に番号を「非通知」に設定した場合でも、これはあくまで相手の電話機に発信者番号を表示しないようにするサービスであり、通信事業者の交換機には発信元の情報は記録されています。したがって、逆探知によって発信元を特定することは可能です。

これらの通信記録を捜査に利用するためには、個人のプライバシー保護のため、多くの場合、裁判所の令状を得るなど、法に基づく厳格な手続きが必要となります。

一方で、110番（警察）、118番（海上保安庁）、119番（消防・救急）といった緊急通報については、国民の生命や安全に関わるため、発信元の情報を即座に通知する仕組みが制度化されています。これらの緊急通報時には、別途の手続きを経ることなく、発信地表示システムなどにより、通報元の位置が通信指令台に表示されるなど、迅速な特定が可能となっています。携帯電話からの緊急通報に関しても、2007年からはこの仕組みが適用されており、GPS機能が搭載されている機種であれば、より精度の高い位置情報が取得できるようになっています。

関連事項

通信
盗聴
* 通信の秘密

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