銘仙

銘仙（めいせん）とは

銘仙は、平織りの絹織物で、鮮やかで大胆な色使いと柄が特徴です。主に先染めの技法が用いられます。
元々は、規格外の繭から取れる太めの絹糸を緯糸に使用し、丈夫で安価な織物として親しまれていました。大正時代から昭和初期にかけて、その斬新なデザインが人気を博し、広く普及しました。

歴史

発祥

銘仙のルーツは、関東・中部地方の養蚕農家が自家用に織っていた紬にあります。当初は「太織り」や「目千」と呼ばれ、縞模様など地味なものが主流でした。
明治時代に入り、身分制度の廃止によって庶民も自由に絹製品を着用できるようになると、絹への憧れから日常着にも絹織物が用いられるようになりました。また、女性の社会進出が進む中で、洋風の感覚を取り入れた銘仙は、女学生や働く女性たちの間で人気を集めました。

名前の由来は、1897年に東京三越で販売された際、「各産地で銘々責任をもって撰定した品」として「銘撰」の字が当てられたことに始まります。その後、「銘々凡俗を超越したもの」という意味を込めて「銘仙」という文字が使われるようになりました。

流行

1907年、学習院長に就任した乃木希典が、女学生の華美な服装を憂慮し、「服装は銘仙以下のもの」と定めました。これを受けて、伊勢崎の呉服商と機屋が協力し、色鮮やかで多彩な柄の「模様銘仙」を開発しました。この新しい銘仙は、女学生たちの間で大流行し、幅広い年齢層の女性に広まりました。最盛期には「西の御召、東の銘仙」と称されるほどでした。

大正末期の街頭風俗調査では、和服を着ていた女性の約半数が銘仙を着用していたという記録もあります。新しい銘仙の普及とともに、高品質の絹紡糸を使用した高級品や、人絹を使用した安価なものなど、品質の幅も広がっていきました。また、技法の発展に伴い、太縞や矢絣といった柄から、大柄で大胆な柄や複雑な柄へと変化し、使用される色数も増加しました。

戦後

第二次世界大戦後、着物と洋服が並立する時代には、銘仙はさらにモダンなデザインを取り入れ、1950年代に最盛期を迎えました。しかし、その後ウール着物が普及すると、日常着としての銘仙は衰退し、洋装の普及とともに和服を着る機会が減ると、絹織物の色柄は古典的なものへと回帰していきました。

現代

かつては「貧しい者が着るもの」「部屋着」と見なされていた銘仙ですが、1990年代後半からのアンティーク着物ブームによって、その評価は大きく変わりました。アール・デコやキュビスムの影響を受けたモダンな柄や大胆な色使いが再評価され、おはしょりをせずに着たり、洋服やブーツと組み合わせるなど、自由な着こなしが楽しまれています。「大正ロマン着物」という新たなジャンルを形成し、現代のファッションシーンにおいても注目を集めています。

技法

銘仙の特徴的な柄は、染色された織糸を意図的にずらすことで、色の境界をぼやけさせる「絣」の技法によって生み出されます。このため、写実的な表現には不向きです。

織り糸の染色

締切絣（括り絣）: 経糸を括り染めで染色し、無地の緯糸を打ち込む技法。縦方向に絣の効果が出ます。
捺染絣: 経糸に型紙をのせて染料を置いて染め、無地の緯糸を打ち込む技法。縦方向に絣の効果が出ます。
板締め絣: 細かい模様を作る際に用いられる技法で、糸を模様を彫った板で挟んで染め分けます。

織り

解し織（ほぐしおり）: 仮織りの反物に型染め（捺染）を施し、仮の緯糸を抜き解しながら本織りの緯糸を打ち込む技法。横方向に絣の効果が出ます。曲線的な表現が可能になり、植物紋様や抽象模様などの模様織りが発展しました。
併用絣: 経糸・緯糸ともに本織りの糸を用いて仮織りを作り、型染めしたのち、本織りし直す技法。伊勢崎でのみ生産されています。
半併用絣: 解し織を施した経糸に、括り染めで染色した緯糸を打ち込む技法。柄の周囲が白く抜けるような意匠が特徴です。
緯総絣（よこそうがすり）: 無地の経糸に染色した緯糸を打ち込んだもの。落ち着いた色味が特徴で、奢侈品等製造販売制限規則が公布された1940年代に流行しました。緯糸の模様を際立たせるために経糸が細く、通常の銘仙よりも裂けやすいという特徴があります。

産地

銘仙の五大産地として、伊勢崎、秩父、桐生、足利、八王子が知られています。

伊勢崎銘仙: 併用絣の技法を用いた、鮮やかな多色使いによる手の込んだ柄が特徴。五大産地の中で最大の生産量を誇り、銘仙の中でも高価な部類に入ります。
秩父銘仙: 布の裏表が同じように染色されているため、仕立て直しがしやすいのが特徴。植物柄が多く、経糸と緯糸の色の組み合わせによって玉虫色の光沢を持つものもあります。解し捺染の技法が特許を取得しています。
桐生銘仙: 高級絹織物である「御召」を模して、撚糸を用いた「御召銘仙」が作られました。小ぶりの柄行きが特徴です。
足利銘仙: 解し織発祥の地。半併用絣の技法を用います。百貨店と連携した大々的なマーケティングで知名度を高めました。近年では、洋服地への転用も進んでいます。
八王子銘仙: 平織ではなく、ドビー織で細かい地紋を織り出す「カピタン織り」と呼ばれる技法を用いたもので、「カピタン銘仙」とも呼ばれます。現在ではほとんど生産されていません。

銘仙は、その独特な意匠と技法によって、日本の文化と美意識を体現する織物として、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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