陽電子頭脳

陽電子頭脳

陽電子頭脳（ようでんしずのう、positronic brain）は、アイザック・アシモフのロボットシリーズに登場する架空の技術です。これは、人間が認識できる意識を何らかの方法で形成する、ロボットの頭脳として機能する高度なコンピュータとして設定されています。

「陽電子脳」「ポジトロン電子頭脳」「ポジトロン頭脳」「ポジトロン脳」など、さまざまな訳語が存在します。

概要

20世紀初頭からSFでは、高度なロボットの頭脳をイメージさせる表現として「人工頭脳」や「電子頭脳」などが用いられていました。「陽電子」は1928年に存在が予想され、1932年に観測された素粒子であり、アシモフがこのシリーズを書き始めた1940年代前後に注目を集めました。電子技術が発展した後でも、「陽電子」は「電子」とは異なる特別な何かを想像させる要素として機能しています。

アシモフの作品から得られる技術的な詳細は以下の通りです。

構造: プラチナ・イリジウムのスポンジ状合金が用いられ、その中で陽電子がランダムに発生することで脳としての機能を実現しています。
ロボット工学三原則: 基本回路設計はロボット工学三原則に準拠しており、この原則がロボットの行動を制限し、人間との関わりにおいて重要な役割を果たします。
放射線への脆弱性: アルファ線やガンマ線などの放射線に対して、人体以上に脆弱です。これは、放射線粒子によって回路中の陽電子が破壊されてしまうためです。
倫理的ジレンマ: ロボット工学三原則に反する行為をしたり、矛盾する状況に陥った場合、機能停止や一部機能の障害（言語不明瞭、四肢の動作不良など）が発生する可能性があります。
製造の不可能性: ハイゼンベルクの不確定性原理により、完全に同一の陽電子頭脳を複数製作することは不可能であるとされています。
記憶容量: 膨大な記憶容量を持ちます。例えば、『鋼鉄都市』に登場するR・ダニール・オリヴォーは、すべての記憶を半永久的に保持し、「自分は物を忘れる能力がない」と語っています。彼は一万年間、最初の頭脳のまま稼働し続け、その後も複雑な頭脳に交換・再記録することで、すべての記憶と能力を維持し続けました。

アシモフ作品以外の登場例

陽電子頭脳は、アシモフの作品以外にも様々なSF作品に登場しています。

データ少佐: 『新スタートレック』に登場する、陽電子頭脳（ポジトロニック・ブレイン）を備えたアンドロイドです。
『パタリロ!』: 78巻『帝国への逆襲』に登場する数万年後の未来を舞台にした番外編では、パタリロ18433世たちが携帯式の陽電子脳を使用しています。
* 宇宙英雄ペリー・ローダン: アルコン星間帝国を統括するロボット摂政など、「ポジトロン脳」と呼ばれる高度に発達したコンピュータを使用した人工知性体が登場します。名称は類似していますが、原理的な部分の詳細は描写されていません。

陽電子頭脳は、SFにおける人工知能やロボット技術の象徴的な存在として、様々な作品に影響を与え続けています。

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