鞆

鞆（とも）: 古代日本の弓具

鞆（とも）は、弓を構える際に左手の内側につけて矢を放つ道具であり、弓の弦が腕や釧に当たるのを防ぐ重要な役割を担っています。古語では「ほむた」や「ほむだ」と呼ばれ、この「鞆」という名称は日本独自の漢字である国字です。鞆は革製の丸い形をしており、革紐によって結びつけられ、装身具や武具の一部として使用されました。

鞆の歴史と考古学的発見

鞆の起源は非常に古く、古墳時代にまで遡ります。その証拠として、古墳時代の形象埴輪の中には実際の鞆を象った「鞆形埴輪」が存在します。特に群馬県前橋市の中二子古墳や、静岡県磐田市の堂山古墳から出土した例が有名で、これらは静岡県指定有形文化財としても認知されています。また、東京国立博物館に所蔵されている国宝「埴輪 挂甲武人」には、左腕の籠手の上に鞆が装着されている様子が描かれており、その詳細な形状を知る手がかりとなっています。さらに、群馬県太田市のオクマン山古墳からは「埴輪鷹匠」と呼ばれる形象が発見され、ここでも腰から提げられた鞆が表現されています。

正倉院には、奈良時代の革製鞆の実物が残っており、当時の製作技術の高さを伝えています。古代の日本社会において、鞆は戦いの道具として機能していたものの、中世頃になると実用的な目的を失い、武官の儀礼用としての役割を果たすようになりました。

鞆と文化

日本古来の文学、特に万葉集では「弓の音」という言葉がしばしば見られます。これは弓矢で矢を射た際に生じる音であり、特に弦が鞆に触れたときの高い音を「鞆音（ともね）」と呼ばれています。このように、鞆は単なる道具であるだけでなく、音楽的な要素や詩的な表現を通じて、日本の文化や自然を象徴する存在とも言えます。

また、応神天皇は日本の弓矢の神として知られ、鞆を携えて生まれたとされています。そのため、応神天皇は生まれながらの武神とされており、いくつかの別称を持っています。誉田別尊（ほむたわけのみこと）や大鞆和気命（おおともわけのみこと）、さらには誉田天皇（ほむたのすめらみこと/ほんだの－）とも呼ばれています。

福山市の「鞆町」や「鞆の浦」といった地名も、この鞆に由来しているとされています。さらに、紋様の一つである「巴（ともえ）」は鞆の形を図案化したものとされる一方で、その形が鞆に似ているため名付けられたとも言われています。

まとめ

鞆は、日本の弓道の歴史と文化の中で重要な役割を果たしてきました。その形状や使用法、さらには文化的な意義が多くの作品や文献に表現されており、古代から現代に至るまで人々の生活に密接に関わっています。鞆は単なる防具ではなく、日本の伝統文化を象徴する重要な要素として、これからも語り継がれていくことでしょう。

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