鳥居清重

鳥居清重：江戸時代の浮世絵師、役者絵に新風を吹き込んだ才能

鳥居清重は、江戸時代中期に活躍した浮世絵師です。生没年をはじめ、詳しい経歴は明らかになっていませんが、鳥居清信という巨匠の晩年の弟子であったと伝えられています。清朝軒という号も用いていたようです。江戸小網町を拠点に活動し、享保年間から宝暦13年（1763年）頃まで作品を制作しました。

彼の作品は、役者絵、美人画、そして当時の出版物である黒本や青本の挿絵と多岐に渡ります。特に役者絵は、写実的な描写で知られています。四代目市川團十郎など、当時の著名な役者をモデルにした作品も残されています。

鳥居清重が活躍した時代、役者の肖像画は必ずしもリアルに描かれるわけではありませんでした。役者の顔の特徴を捉えた、写実的な役者絵が一般的に制作されるようになったのは、勝川春章が登場して以降のことです。このため、清重の役者絵は、写実的な役者絵の先駆けとして貴重な存在と言えるでしょう。ただし、彼の作品は立役の役者については似顔絵として描かれているものが多く見られますが、若女形の役者については、似顔絵とは言い難い作風となっています。

清重の作風は、ややずんぐりとした硬質な人物描写が特徴です。しかし、鳥居派独特の様式美の中にあって、役者の個性を捉えようとする新鮮な試みが見られます。これは当時の浮世絵界において、画期的な試みであったと言えるでしょう。

代表的な作品

清重の作品は、全国の美術館に所蔵されています。代表的な作品をいくつか挙げると、以下のようになります。

「隠れ蓑を持つ和実の澤村宗十郎」(幅広細判漆絵): 東京国立博物館蔵
「宝蔵の鍵を持つ本実の坂東彦三郎」(幅広細判漆絵)
「宝の小槌を持つ荒実の初代大谷廣治」(幅広細判漆絵): 東京国立博物館蔵
「市川海老蔵の暫」(大判紅絵)
「二代目市川團十郎の不破伴左衛門と大谷廣次の由井濱忠節」(漆絵): 城西大学水田美術館所蔵
「立美人図」(紙本着色): 浮世絵太田記念美術館所蔵
「矢の根五郎図」(紙本着色): たばこと塩の博物館所蔵
「佐野川市松立姿図」(紙本着色): 熊本県立美術館所蔵
「草摺引図」(板絵着色): 麻布美術館旧蔵

これらの作品は、清重の多様な表現技法と、役者への深い洞察を示しています。

参考文献

鳥居清重に関する研究は、近年増加傾向にありますが、依然として不明な点も多く残されています。彼の作品を理解する上で、以下の文献が役立ちます。

日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』（第2巻）、大修館書店、1982年
林京平 「鳥居清重の「草摺引図」絵馬」、東京国立文化財研究所 「芝居絵絵馬の保存修復処置の研究」『麻布美術館 研究紀要2 1986年・秋』 1986年11月15日、pp.44-46,48-53
武藤純子 『初期浮世絵と歌舞伎　役者絵に注目して』 笠間書院、2005年、ISBN 978-4-305-70287-6
* 『風俗画と肉筆浮世絵　たばこと塩の博物館所蔵肉筆絵画撰』 たばこと塩の博物館、2007年

これらの文献を通して、鳥居清重の生涯と作品について、より深く理解を深めることができるでしょう。今後の研究により、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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