“記憶”と生きる

映画『“記憶”と生きる』

ドキュメンタリー映画『“記憶”と生きる』（韓国語題: 기억과 함께 산다）は、日本のジャーナリストであり映画監督の土井敏邦氏がメガホンを取った作品です。この映画は、第二次世界大戦中の日本軍によるいわゆる「慰安婦」問題に焦点を当てています。長年にわたり、この問題を取材し続けてきた土井監督が、元「慰安婦」として生きてきた女性たちの声に耳を傾け、その「記憶」を記録したものです。

作品の構成と内容

映画は二部構成となっています。

第一部では、韓国の京畿道広州市にある元慰安婦のための施設「ナヌムの家」で共同生活を送る女性たちの姿を追います。彼女たちが過去の過酷な体験や、それ以降の人生、そして現在の日常について語る様子が描かれています。様々な形で刻まれた「記憶」が、彼女たちの人生とどのように向き合っているのかが映し出されます。
第二部は、作品の中でも中心的な人物の一人である姜徳景（カン・ドッキョン）氏の晩年に焦点を当てています。彼女の逝去するまでの最期の約2年間にわたる記録が収められており、その日常や心情、そして彼女が伝えようとしたメッセージが丹念に記録されています。

制作背景と公開

本作は、土井監督が1994年12月から1997年1月という長期にわたる期間をかけて撮影した膨大な映像素材をもとに編集されました。その後、制作から時間を経て、2015年に一本のドキュメンタリー映画として劇場公開されました。

しかし、公開当時、映画の中で証言者として登場した6名の女性は、既に全員がお亡くなりになっていました。これは、この問題の歴史の長さや、証言者たちの高齢化が進んでいる現実を示しています。映画は、亡くなった彼女たちの「記憶」を後世に伝える役割も担っています。

公開後の反響

映画の公開後、各地で上映が行われ、多くの反響を呼びました。特に、上映会後には、

北原みのり（作家）
高橋哲哉（哲学者）
池田恵理子（女たちの戦争と平和資料館館長）
永田浩三（ジャーナリスト）
雨宮処凛（作家・活動家）
根岸季衣（俳優）
金富子（歴史学者）
金優綺（在日本朝鮮人人権協会）
* 梁澄子（日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表）

といった、様々な分野の識者や著名人を招いたトークイベントが頻繁に開催され、映画の内容や慰安婦問題についての議論が深められました。

さいたま市での後援取り消し

本作に関する特筆すべき出来事として、2017年4月15日にさいたま市緑区の映画館「チネマ・カプチーノ」で予定されていた自主上映会において、さいたま市教育委員会による後援が取り消しになった事例があります。この上映会は当初、教育委員会の後援を得て実施される予定でした。

しかし、自主上映の計画が明らかになった後、多くの市民から教育委員会に対し抗議が寄せられました。抗議の内容は、この映画が「慰安婦に関する歴史的な事実関係に誤りがある」こと、そして「政治的に極めて偏向している」というものでした。これらの意見を受け、さいたま市教育委員会は最終的に後援を取り消す判断を下しました。

教育委員会の後援はなくなったものの、チネマ・カプチーノにおける自主上映会は当初の予定通り実施されました。この事例は、慰安婦問題を巡る議論が社会の中で続いている現状を示すものとなりました。

関連情報

映画に関連して、監督である土井敏邦氏による書籍『“記憶”と生きる: 元「慰安婦」姜徳景の生涯』が大月書店より2015年4月に出版されています（ISBN 978-4272521067）。この書籍は、映画では描ききれなかった姜徳景氏の生涯について、さらに詳細な情報を提供しています。

また、映画の公式サイトも開設されており、作品情報や上映情報などが公開されています。

本作は、元慰安婦たちの「記憶」を通じて、歴史の真実と向き合うことの重要性を問いかけるドキュメンタリーとして、公開後も様々な議論を呼んでいます。

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