姜徳景

姜徳景（カン・ドクキュン、강덕경）は、太平洋戦争中にいわゆる慰安婦として経験した自身の苦難を公に証言した人物の一人です。1929年、朝鮮慶尚南道晋州に生まれました。

彼女の証言によれば、1943年、15歳で高等科1年生の時、教師の指示により女子勤労挺身隊員として日本へ渡航しました。富山県にあった不二越の工場で旋盤工として勤務しましたが、給与は預金するという名目で実際には支払われなかったと証言しています。

数ヶ月後、食事不足による空腹から工場を逃走しますが、すぐに連れ戻されました。さらに数ヶ月後、再度逃亡を図った際、道中で「小林」と名乗る憲兵（腕章と三つの星の肩章を付けていたと証言）に拘束され、トラックに乗せられました。山中でこの憲兵により性暴力の被害を受けた後、トラックで移動させられ、小さな部隊に付属するテントに送られました。そこで他の女性たちと共に、約4ヶ月間にわたり毎晩のように強姦されたと証言しています。

その後、再び「小林」によってトラックで移動させられ、畑が広がる場所にある大きな部隊の慰安所に送られました。そこには20人ほどの女性がおり、兵士たちの性的な相手を強いられたといいます。防空壕の中でも同様の行為を強いられたとも述べています。慰安所の場所について、地名を尋ねた際に「マツヤマ」あるいは「マツシロ」と聞かされたと証言しており、証言内容から現在の長野県にある松代大本営関連の施設であった可能性が指摘されています。「小林」は、そこを天皇が避難に来る場所だと話していたと伝えられます。

1945年のある日、泣いている声を聞いて終戦を知りました。その後、大阪を経て伏木の朝鮮人部落へと移動しました。その部落で働き、そこで知り合った人々と共に朝鮮へと帰郷しました。

戦後、姜徳景氏は自身の経験について証言活動を行うようになりました。1992年8月には、かつて慰安所があったとされる長野県松代で講演を行っています。晩年は韓国の「ナヌムの家」で生活しました。1997年2月に死去しました。

姜徳景氏の証言は、太平洋戦争下の日本の性暴力問題を考える上で貴重な資料となっている一方、歴史研究者による検証の対象ともなっています。歴史家の秦郁彦は、自身の著書『慰安婦と戦場の性』（1999年）の中で、姜徳景氏の証言の一部に言及しています。特に、富山地区に当時勤務していた元憲兵への聞き取りに基づき、憲兵は単独行動をとらず、サイドカーを使用していたこと、「小林」という憲兵は存在しなかったこと、不二越工場の周囲には遊郭があったことなどを指摘しています。このことから秦は、「小林」は憲兵ではなく、遊郭に関わる業者で軍服に似た国民服を着用していた可能性を示唆しています。ただし、秦は姜徳景氏の証言全体の真偽について明確な結論を述べているわけではありません。秦はまた、金学順、文玉珠、金田きみ子、金充心、金順徳、金殷礼、鄭書云、李容洙、金君子といった他の元慰安婦とされる人々の証言にも言及しています。

姜徳景氏の最晩年の2年間は、2015年7月に公開されたドキュメンタリー映画『“記憶”と生きる』（土井敏邦監督）の第二部で記録されており、その生涯の一端を知ることができます。

彼女の証言や生涯は、大月書店から出版された書籍『“記憶”と生きる：元「慰安婦」姜徳景の生涯』（2015年）でも詳細に記述されています。

姜徳景氏の事例は、慰安婦問題、女子勤労挺身隊、そして戦争中の性暴力といったテーマを論じる上で重要な参照点となっています。

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