あやめ (人工衛星)

あやめ（ECS）について

あやめ、正式名称または英語名はExperimental Communications Satellite（ECS）は、1979年に宇宙開発事業団（NASDA）によって打ち上げられた人工衛星です。この衛星は、主に通信技術の実験を目的としていた試験用静止通信衛星です。しかし、その運命は不運であり、静止衛星軌道への投入には失敗してしまいました。

目的と技術的背景

あやめの主な目的は、ミリ波周波数帯を用いた通信実験や電波伝播特性の調査でした。さらに、追跡管制技術や姿勢制御技術など、将来的な静止衛星技術の確立も目指していました。静止衛星は、地球上の特定の位置に留まることができるため、通信能力の向上に大きく寄与することが期待されていました。

あやめは、技術試験衛星II型「きく2号（ETS-II）」に続いて、日本における独自の静止衛星技術を確立するための重要なステップと位置づけられました。特に、この衛星はミリ波帯を宇宙通信に利用するための先駆けとなることを目指しており、国産のミリ波帯高出力進行波管増幅器を搭載するなど先進的な技術が盛り込まれていました。これにより、ミリ波帯とマイクロ波帯の周波数を衛星上で相互接続することが可能となりました。

ただし、ミリ波帯の通信にはいくつかの短所もありました。降雨による信号の減衰が大きいことや、開発コストの高さなどがそれです。しかし、その一方で広い帯域の未利用周波数を活用でき、高速の通信が可能という利点も存在しました。さらに、小型のアンテナでも高い利得が得られる点も魅力的でした。

開発プロセス

あやめの開発は1967年度から始まりました。その際、郵政省電波研究所（RRL）において研究が進められ、1968年度からは日本電信電話公社の協力を得ながらミッション機器のエンジニアリングモデルの試作が行われました。1970年度にはNASDAが設立され、衛星本体部分の開発はNASDAが担当し、ミッション部分はRRLが引き続き担当する形となりました。

当初、衛星の打ち上げは旧Nロケットで予定されていましたが、1970年度には新N計画への移行が発表され、N-Iロケットでの打ち上げが決定しました。NASDAは1971年度にコンセプトデザイン、1972年度に予備設計、1975年度には基本設計を行うなど、計画を着実に進めました。1977年には詳細設計が完了し、1978年9月にはプロトフライトモデル（PFM）およびフライトモデル（FM）の製作も完了しました。

打ち上げとその失敗

1979年2月6日、あやめはN-Iロケット5号機に乗せられ、種子島宇宙センターから打ち上げられました。衛星は長楕円の静止トランスファ軌道に投入されましたが、静止軌道への移行を目指したアポジモーターの噴射中に、衛星からの通信が途絶えるという問題が発生しました。調査の結果、衛星が第3段から分離する際にヨーウェイトの異常動作があり、第3段のモータが衛星に接触したことが原因であると推測されています。

位置づけと今後の影響

あやめの失敗は、当初の目標を達成することはできませんでしたが、この衛星の開発と打ち上げは日本の宇宙開発技術の向上に寄与しました。その後、予備衛星として「あやめ2号」も打ち上げられましたが、こちらも静止軌道への投入に失敗してしまいます。しかし、これらの取り組みは後の成功に向けた貴重な経験として、現在の宇宙通信技術に大きな影響を与えました。日本の宇宙開発の歴史において、あやめは重要な一歩であり続けています。

もう一度検索