あるカタストロフ

ジャン＝リュック・ゴダール監督による2008年の短編映画『あるカタストロフ(Une catastrophe)』は、フランス、スイス、オーストリア合作の意欲作です。ウィーン国際映画祭のプログラムとして制作され、同映画祭期間中の2008年10月18日から29日にかけて、オーストリア国内100館もの映画館で上映されました。

この作品は、オムニバス映画『10ミニッツ・オールダー』への参加作品として制作されました。ゴダール監督は、当初「10分の映画を1本」という依頼に対して、「1分の映画を10本作る」という独自の解釈で挑み、過去に『時間の闇の中で』(2002年)を制作した経緯があります。ウィーン国際映画祭側は、ゴダール監督を10年もの歳月をかけて説得し、本作の制作を実現させたといいます。

『あるカタストロフ』は、ゴダール監督の代表作『ゴダールの映画史』と同様に、既存の映像素材を再編集するという手法を用いています。映画史に残る名作からの引用が目立ち、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の『戦艦ポチョムキン』(1925年)の有名な「オデッサ階段」のシーンや、兵士、戦車、戦闘機といった戦争を想起させるイメージが使用されています。さらに、1930年代のベルリンを舞台にしたセミドキュメンタリー作品『日曜の人々』(監督：エドガー・G・ウルマー、クルト・シオドマク、ロバート・シオドマク、フレッド・ジンネマン)からのキスシーンも登場します。

映像だけでなく、音響面にも工夫が凝らされています。テニスのラケットがボールを打つ音、そしてドイツ民謡『Dat du min Leevsten büst』(「最愛の人はあなた」の意)の朗読、ロベルト・シューマンのピアノ曲『子供の情景』からの抜粋など、多様な音が作品に深みを与えています。さらに、ゴダール監督自身による4枚の字幕が挿入されており、それらは『それが最初(C'est la première)』『ある詩の節(Strophe d'un poème)』『愛の(D'amour)』といった、詩的で意味深な言葉で構成されています。

『あるカタストロフ』は、わずか63秒という短い上映時間ながら、ゴダール監督の映画に対する独自の哲学と、歴史や記憶、そして愛といった普遍的なテーマを凝縮した作品と言えるでしょう。カラーのビデオ作品で、上映サイズは1:1.33のエジソン式スタンダードサイズです。監督、脚本、編集はすべてゴダール監督自身が行い、音楽にはロベルト・シューマンが起用されています。この作品は、ゴダール監督の類まれな才能と実験精神を示す、興味深い短編映画として高い評価を得ています。 ゴダール監督の、歴史的映像を独自の視点で再構成し、新たな意味を付与する手法は、現代の映像表現にも大きな影響を与えています。わずか63秒の中に、歴史、記憶、そして愛が凝縮された、まさにゴダール監督らしい、そして忘れがたい作品です。

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