いさましいちびのトースター

アメリカのSF作家、トマス・M・ディッシュによって1980年に発表された短編小説。『ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション』誌の同年8月号に掲載された。使い手に置いていかれた電気器具たちが、再び人間に使われることを願って冒険の旅に出るというユニークな発想の物語である。

本作は高い評価を受け、ローカス賞や英国SF協会賞を受賞。日本でも、優れた海外短編に贈られる星雲賞海外短篇部門を受賞している。その邦題は、グリム童話の「勇ましいちびの仕立て屋」から着想を得たものである。

作品の人気を受けて、アニメ映画『ブレイブ・リトル・トースター』が制作され、さらに続編小説『いさましいちびのトースター火星へ行く』も刊行された。この続編もアニメ映画化され、『ブレイブ・リトル・トースター火星へ行こう!』として劇場公開されているほか、さらに別の続編アニメも制作された。

あらすじ

物語は、夏の別荘に長期間置き去りにされた数台の電気器具たちの話し合いから始まる。彼らのご主人様は二年五ヶ月もの間、この別荘を訪れていない。見捨てられてしまったのか、それとも何らかの不幸に見舞われたのか？不安を抱きながらも、彼らはもう少しだけ待つことにする。

それからさらに五ヶ月、計二年十ヶ月が経過した頃、一台のトースターが提案する。「ラジオで聞いたんだが、置き去りにされた犬が数百キロ歩いて飼い主の元へ帰ったらしい。僕たちも試してみないか」。この提案に乗ったのは、トースター自身に加え、リーダー格の掃除機、時間に厳しい目覚ましラジオ、明るい黄色の電気毛布、そして首が自由に動く卓上スタンドの五台だ。彼らはベッドのキャスターを事務用椅子に取り付け、即席の移動手段を作り上げた。人間の目に触れるハイウェイを避け、森の小道を辿る旅が始まる。道中、彼らは森の美しい自然に心を奪われるが、ある夜、激しい雷雨に見舞われ、電気毛布が吹き飛ばされて行方不明になってしまう。幸い、電気毛布は高いオークの枝に引っかかっているところをリスの夫婦に助け出された。感謝の気持ちとして、トースターは拾ったドングリを焼いてプレゼントする。

旅を続ける一行は、やがて大きな川に行き着き、そこで道が途切れる。古いボートを見つけた彼らが乗り込もうとした時、その持ち主である男が現れる。男は彼らの乗っていた事務用椅子を川に投げ捨て、残りの電気器具たちを自分のボートに積み込んだ。その立ち居振る舞いから、彼らは男が泥棒であると察する。対岸に到着すると、泥棒はラジオだけを小屋に運び入れ、他の電気器具をゴミ置き場に廃棄する。しかし、夜のうちに彼らはラジオを救出する準備を着々と進めた。掃除機は泥棒の車からバッテリーを充電し、卓上スタンドは割れた電球を付け替えた。そして、発見した乳母車を改造し、新たな移動手段兼、泥棒を驚かすための仕掛けを作り上げる。掃除機のパイプから毛布を垂らし、その上にトースターが乗り、毛布の隙間からスタンドの光を放つ。小屋から出てきた泥棒は、トースターの光沢のある表面に映った自身の姿に驚き、恐怖のあまり逃げ出した。こうして、ラジオは無事救出された。

驚くべきことに、彼らが捨てられたゴミ置き場は、ご主人様の住むマンションからわずか1キロほどの距離だった。掃除機がビルのエントランスを開放し、エレベーターで十四階へと向かう。部屋の呼び鈴を押すと、中から出てきたのは見慣れないミシンだった。部屋を間違えたと思った掃除機が詫びようとした時、奥から懐かしいテレビの音声が響く。「その声はフーバーかい？」。ついに、彼らはご主人様の家へと辿り着いたのだった。

年老いたテレビが、マンションにいる様々な電気製品たちを旅の仲間たちに紹介する。旧知の友もいれば、初めて会う者も多かった。そこで彼らは、ご主人様が別荘を訪れなくなった理由を知る。奥様が花粉症になったため、森の近くを避け、海のそばで過ごすようになったのだという。そして、別荘がもうすぐ売却される予定であることも伝えられる。帰る場所を失うことになったトースターたちは熟考し、五台まとめて使ってもらうことを条件に、ラジオ番組の「交換会」に出品することを決める。放送が終わるとすぐに、番組を聞いていたリスナーから連絡が入った。こうして、彼らは五匹の子猫と交換され、几帳面できれい好きな老バレリーナの許へと引き取られることとなった。新しい使い手の下で、五台の電気器具たちはこれからも幸せに働き続けるのだった。

主な登場キャラクター

トースター: 五台の中で一番若く、一度に二枚のトーストを焼ける。サンビーム社製。
掃除機: 電気器具たちのリーダー格で、年長者。新しい世代の掃除機を気にしている。フーバー社製。
目覚ましラジオ: 時計付きのため時間に厳格。AM放送しか受信できないことを気に病んでいる。
電気毛布: 鮮やかな黄色の毛布。ドライクリーニングされることを望んでいる。
卓上スタンド: 首が柔軟に曲がる。かつて貯蓄銀行で使用されていたため、店頭販売される器具との違いに悩むことがある。テンソル社製。
リス: ハロルドとマージョリーの夫婦。木に引っかかった電気毛布を助け、トースターに木の実を焼いてもらう。
泥棒: 旅の途中の電気器具たちを拾うが、ラジオ以外をゴミ捨て場に投棄する。

日本語訳

本作は浅倉久志による日本語訳があり、早川書房より出版されている。

『いさましいちびのトースター』ハヤカワ文庫SF、1996年（単行本版は1987年、吾妻ひでお挿絵）
『いさましいちびのトースター火星へ行く』ハヤカワ文庫SF、2000年（単行本版は1989年、吾妻ひでお挿絵）

映画化作品

『ブレイブ・リトル・トースター』（監督・脚本：ジェリー・リース）
『ブレイブ・リトル・トースター火星へ行こう!』（監督：ロバート・ラミレズ）
『ブレイブ・リトル・トースターレスキュー大作戦!』（監督：ロバート・ラミレズ）

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