うたかたの恋 (バレエ)

バレエ『うたかたの恋』：皇太子ルドルフの悲劇

『うたかたの恋』（原題：Mayerling）は、1978年にロイヤル・バレエ団によって初演された、全3幕からなるバレエ作品です。19世紀末のオーストリア＝ハンガリー帝国で実際に起こったマイヤーリンク事件を題材とし、皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの悲恋と死を描いています。

作品の背景

振付はケネス・マクミラン、台本はジリアン・フリーマン、音楽はフランツ・リスト（ジョン・ランチベリー編曲）が担当しました。マクミランは、この作品でルドルフの苦悩に満ちた内面と、彼を取り巻く宮廷社会の複雑な人間関係を浮き彫りにしました。甘美なロマンティシズムを排し、政治情勢と人間の心理的抑圧に焦点を当てたことで、事件の核心に迫るドラマが展開されます。

主人公ルドルフ

バレエ作品としては珍しく、男性が主人公として描かれているのが特徴です。ルドルフは物語の中心人物として、複雑な人間関係の中で苦悩し、破滅へと向かっていきます。彼に関わる女性たちの中でも、特に重要な存在がマリー・ヴェッツェラです。マリーは単なる悲劇のヒロインではなく、野心と「愛のために死ぬ」という妄想に取りつかれた女性として描かれています。

音楽の魅力

ジョン・ランチベリーは、マクミランからの依頼を受け、フランツ・リストの音楽を選び、編曲しました。ランチベリーは、リストがオーストリア＝ハンガリー帝国出身であること、そして彼の音楽が持つメロドラマティックな要素に魅力を感じました。『メフィスト・ワルツ』第1番などは、居酒屋の場面で使用され、作品に深みを与えています。各幕の終わりには、ルドルフと相手の女性によるパ・ド・ドゥが踊られ、ルドルフの破滅への過程が表現されます。

振付の特徴

マクミランの振付は、男女の体が絡み合い、ほどける様子をスピーディーに表現することで、登場人物たちの激情と歪んだ悦楽を描き出しています。リフトを多用し、複雑な人間関係と心理状態を視覚的に表現しています。ルドルフを踊るダンサーには、高い技術だけでなく、屈折した人間性を表現する演技力も求められます。

初演と評価

1978年2月15日、コヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスで初演された『うたかたの恋』は、『マノン』や『ロミオとジュリエット』と並ぶマクミランの代表作として評価され、ロイヤル・バレエ団のレパートリーとして定着しました。しかしマクミランは1992年の再演時に楽屋で心臓発作を起こし、生涯を終えています。

物語の展開

物語は、ルドルフとステファニー皇太子妃の婚礼から始まり、ルドルフがマリー・ヴェッツェラと出会い、恋に落ちる過程が描かれます。ルドルフは、政治的な束縛や家庭内の不和に苦悩し、次第に退廃的な生活を送るようになります。彼は、マリーと共に死を選ぶことで、苦しみから逃れようとします。

登場人物

ルドルフ: オーストリア＝ハンガリー帝国の皇太子。
マリー・ヴェッツェラ: 男爵令嬢。ルドルフの愛人。
ステファニー皇太子妃: ルドルフの妃。
フランツ・ヨーゼフ皇帝: ルドルフの父。オーストリア＝ハンガリー帝国皇帝。
* エリーザベト皇后: ルドルフの母。

結末

物語は、ルドルフとマリーがマイヤーリンクの狩猟小屋で心中するという悲劇的な結末を迎えます。彼らの死は、宮廷社会に大きな衝撃を与え、歴史に名を刻むこととなりました。

『うたかたの恋』は、愛と死、そして人間の心の闇を描いた、感動的なバレエ作品です。

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