かかし王子

バルトーク・ベーラの『かかし王子』

『かかし王子』(A fából faragott királyfi)は、ハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラによって作曲されたバレエ音楽です。この作品は、バルトークが生涯において唯一手掛けたバレエ音楽であり、ストーリーはバラージュ・ベーラによって書かれています。本作品には小組曲（約15分）と大組曲（約30分）が編纂されており、初演は1917年5月12日にブダペスト歌劇場で行われました。

作曲の経緯

1912年、バルトークはブダペストで行われたセルゲイ・ディアギレフ率いるバレエ・リュスの公演を観ていないものの、その影響が作品に表れています。その公演にはストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》が含まれており、この作品に強い印象を受けたハンガリーの楽しんでいた文芸誌に『かかし王子』のシナリオが公開されました。バラージュは、そのシナリオをバルトークのために書いたと説明しており、バーンフィ伯爵が舞台装置を手掛けるを通じて、バルトークは作曲を引き受けることとなります。

1914年に作曲を開始したバルトークですが、オーケストレーションが完成したのは1917年であり、第一次世界大戦によって作曲活動が制約を受けていました。公演準備が進む中で演出や振り付け担当をバラージュが引き受け、イタリア人指揮者エギスト・タンゴによる初演は成功を収めました。この成功により、かつて演奏機会のなかった《青ひげ公の城》も翌年に初演されることになります。

【バレエの概要】

『かかし王子』の物語は胸を打つ美しさと色彩感に満ちており、バルトークの音楽はその新しい視点を通して描かれる。物語は、王子と王女、もとよりかかし王子との関係性や、妖精との力関係を描いており、特に音楽的要素がその物語の深さに寄与しています。

物語の舞台は、小川に囲まれた王女の小さな城から始まり、舞い落ちる森の中での舞踏が描かれます。王女が踊っていると、王子が恋に落ちるが、妖精の魔法が彼の行動を阻んでしまいます。

音楽的特徴

バルトークはこの作品を「踊れる交響詩」と位置付けています。音楽は明確に三部構成に分かれ、第1部では王子と王女のダンスから始まり、第2部では妖精による神格化の描写へと進みます。そして第3部では、かかし王子と王女が再登場し、作品全体が立体的に構成されています。サクソフォーンの使用も特徴的で、民謡調の旋律が色彩感豊かに響き渡ります。

またこの作品の音鳴りの特異性は、例えばコル・レーニョ奏法や木の質感を模した即興的な表現に見られます。特に王子がかかし王子を作成する楽節では、特定の旋律がワーグナーの楽劇『ラインの黄金』を彷彿とさせる要素が盛り込まれており、作品に深みを与えています。初演からの評価を受け、後に数回にわたり改訂が行われ、音楽的な価値はさらに高まりました。

改訂と組曲版

バルトークは1921年から組曲版の制作を計画し、数回にわたって改訂が行われています。1932年の改訂版では、従来の演奏省略部分に配慮された構成がなされ、様々な編集の見直しが進められました。バルトーク自身の意図や音楽的要請を鑑みながら音楽を洗練し、聴衆にとってより親しみやすい形へと進化を遂げました。

まとめ

『かかし王子』は、バルトークの音楽性を含めたさまざまな魅力が織り交ぜられた作品です。そのストーリーが伝える人間の悲劇や難しさに立ち向かう姿は、聴衆に深い感動を与え、多くの再演機会を得てきました。作品の魅力は今後も新しい解釈や演出により、未来の世代にも受け継がれていくことでしょう。

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