しんせい (たばこ)

しんせい

「しんせい」は、かつて日本たばこ産業（JT）が製造・販売を手掛けていた紙巻きたばこの銘柄です。ソフトパック仕様で、長らくフィルターを持たない両切りタイプとして知られていましたが、販売終了間際の2016年からはフィルターが取り付けられていました。かつてはタール22mg、ニコチン1.6mgという数値でしたが、フィルター化後はタール15mg、ニコチン1.0mgに変更されています。

歴史

「しんせい」は、日本のたばこ専売制度を担う日本専売公社（現JT）が発足したのと同じ日、1949年（昭和24年）6月1日に世に送り出されました。戦後混乱期からの復興を象徴する新しい時代のたばことして、「新生」という名が冠せられたのです。

この銘柄は、「旧3級品」と呼ばれる、当時比較的安価だったたばこ群の一つに位置づけられます。1950年代に入ると、それまで高い人気を誇っていた「ゴールデンバット」に代わるように、大衆向けの主力銘柄としての地位を確立しました。しかし、1950年代中期には原料となる葉たばこが不足し、「しんせい」を含む専売公社の主力製品は深刻な供給難に陥ります。たばこ店では品切れが頻発し、喫煙者は価格の高い他の銘柄を選ばざるを得ない状況が発生しました。当時の国会、具体的には参議院の大蔵委員会においても、「バット」や「しんせい」といった銘柄名を挙げて、その供給不足が重要な問題として議論されたほどです。

時代の流れと共に、2016年には発売以来初めての大規模な仕様変更が発表されました。「ゴールデンバット」と共にフィルター付きとなり、同時にタール値は22㎎から15㎎へ、ニコチン値は1.6㎎から1.0㎎へと低減されました。価格も従来の250円から30円値上げされ、280円となりました。その後、2018年4月1日にはさらに価格改定が行われ、一箱350円となっています。

そして、2018年10月9日、製造元のJTから「しんせい」の販売終了が正式にアナウンスされました。同年12月以降、市場の在庫がなくなり次第、その長い歴史に幕を下ろすこととなったのです。

パッケージデザイン

「しんせい」のパッケージは、黄土色と茶色の地を基調とした、落ち着いたデザインが特徴でした。中央には、赤色で細いゴシック体のローマ字による「SHINSEI」のロゴがあしらわれていました。このシンプルな意匠は、長年にわたり多くの喫煙者に親しまれました。

文化の中に登場する「しんせい」

「しんせい」は、その大衆的な人気と長い歴史ゆえに、日本の様々な文化作品の中に登場しています。

作家の山本周五郎は、愛煙していた缶入りの「ピース」から「しんせい」へと切り替えた時期があったとされています。その理由として、ニコチン量が比較的少ないことを挙げていたようです。
映像作品では、タレントで映画監督のビートたけし（北野武）の自伝的小説をドラマ化した『菊次郎とさき』の中で、主人公の父である北野菊次郎（演：陣内孝則）がこの銘柄を吸う場面が描かれています。
文学作品においても登場例は多くあります。三島由紀夫の代表作の一つである小説『潮騒』（1954年発表）では、主人公の久保新二が乗り込む漁船の漁労長や、島の灯台長が「しんせい」を吸う様子が描写されています。
海外の作品では、イアン・フレミングによるスパイ小説「ジェームズ・ボンド」シリーズの一作、『007は二度死ぬ』（1963年発表）に登場します。物語の舞台である日本に来日したジェームズ・ボンドが、普段吸っている特注たばこの代わりに「しんせい」を選び、外出先でも買い求めるシーンが描かれています。作中では「カリフォルニア葉の味」「軽く、すぐ吸い終わってしまう」といった吸い味についてのボンドの感想が記されており、これは作者フレミングが1962年に実際に日本を訪れた際の体験が反映されていると考えられます。なお、ボンドが普段愛飲するたばこはロンドンの高級煙草店に特注する強いブレンドという設定であるため、日本製紙巻きたばこの中でもタール値が高かった「しんせい」でさえ、彼にとっては軽いと感じられたという描写になっています。
漫画・アニメでは、モンキー・パンチ原作の「ルパン三世」シリーズにおいて、ルパンを追うレギュラーキャラクター、銭形警部が愛煙するたばことして「しんせい」が繰り返し登場しています。
安部公房の小説『砂の女』（1962年発表）では、砂穴に閉じ込められた主人公・仁木順平に、部落からの配給品として「しんせい」が届けられる描写が見られます。
また、菊地秀行の小説「魔界都市〈新宿〉」をはじめとするドクター・メフィストシリーズでは、登場人物である朽葉刑事が愛用するたばことして描かれています。
映画では、1968年公開の「帰って来たヨッパライ」で、値上がりした「しんせい」を巡るシーンが描かれました。1974年公開の映画「砂の器」では、今西警部補（演：丹波哲郎）が伊勢の映画館の売店で「しんせい」を購入する場面があります。
* 青木雄二の漫画『ナニワ金融道』にも「しんせい」が登場します。作中の1996年頃の描写で、海事代理士の落振が吸っており、当時の自動販売機では見かけない珍しいたばことして描かれています。

その他にも、「国民の煙草しんせい」という宴会歌・お座敷歌が存在します。「赤旗の唄」や「国民の唄」の替え歌と言われ、鈴木慶一などが音源を残しています。歌詞には複数のパターンがあるようですが、基本的には「安価で本数が多い」といった銘柄の特徴を歌ったものです。フォークシンガーの友部正人の楽曲「一本道」の歌詞にも、「しんせいひとはこぶんの〜」という一節が登場します。

まとめ

このように、「しんせい」は、戦後復興期に生まれ、安価で大衆に広く普及したタバコとして、日本の社会や文化に根差した存在でした。多くの人々に愛され、様々なフィクション作品にもその姿を残しましたが、時代の変化と共に2018年に静かにその役目を終えました。

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