たけし (猫)

三毛猫たけしの南極での冒険

たけしは、日本が初めて南極観測に挑戦した際に同行した三毛猫です。彼は昭和基地での越冬を経験し、数多くの隊員に愛されながら生活しました。出発の数日前、動物愛護団体の鈴木はな氏が「オスの三毛猫は縁起が良い」として、船員に手渡したことで、彼の南極の旅が始まります。この時はまだ名前もなかったたけしですが、船内で公募された結果、隊長の永田武にちなんで「たけし」と名付けられました。

たけしはその性格から、他の犬たちとは異なり、純粋にチームのペットとして愛玩されていました。特に、通信隊員の作間敏夫さんには特別な絆が結ばれました。作間が基地内を歩くたび、たけしは彼の後を追い、夜は彼の寝袋の上で眠る様子がしばしば見受けられました。この猫には、温かいところを求める一面があり、荷役や研究の作業には参加せず、樺太犬の子犬たちと遊ぶ時間を持っていたのです。

1957年10月30日、たけしは作間の部屋で大型通信機の暖かさを求めて潜り込んでいる最中に、誤って高圧線に触れて感電してしまいました。数日間昏睡状態に陥りましたが、隊員たちの看病によって元気を取り戻しました。その後には、トウゾクカモメに襲われるハプニングもありましたが、彼は無事に撃退しています。

越冬が終了した後、たけしは越冬隊長の西堀榮三郎隊長と、作間と共にセスナ機で帰路に着きました。隊員たちを含む多くの人々と共に過ごした彼は、昭和基地での生活を満喫していました。たけしは約3.5キログラムという体重のため、重量制限が厳しいセスナ機に無事に乗ることができました。

日本に帰国後、作間に引き取られたたけしは、一時的に家庭に受け入れられましたが、作間が取材などで外出している間に脱走して行方不明になってしまいます。作間は「たけしは昭和基地に帰ろうとしたのかもしれない」と語り、彼の帰巣本能の強さを示唆しました。

2019年には、たけしを題材にしたフェルト製のぬいぐるみが人形作家の荻原弘子によって制作され、極地研究所南極・北極科学館へと寄贈されました。あらゆる思い出と共に、当時の昭和基地での様子を再現した写真撮影も行われました。

このたけしの物語は、ただの猫が南極で経験した冒険を通して、私たちに多くの感動を与える一篇の物語です。猫がどのように人々の愛を受け、またその間に生まれた友情がどれほど貴重なものであったかを考えさせられるのです。

もう一度検索