たらい舟

たらい舟：歴史と文化、そして現代の利用

たらい舟は、文字通り「たらい」を舟として利用する独特な乗り物です。特に新潟県佐渡島の小木海岸では、沿岸漁業に欠かせない存在であり、観光資源としても親しまれています。

たらい舟の歴史

たらい舟が考案されたのは、江戸時代から明治時代にかけてのこと。佐渡小木地震がきっかけでした。地震による海面の隆起で海岸線に多くの岩礁や入り江ができ、従来の舟では漁が困難になったため、小回りが利き安定性のある舟として、洗濯桶を改良したたらい舟が誕生しました。耐荷重は約500kg、櫂一本で操舵できるのが特徴です。

たらい舟の素材と技術

素材には、水を含むと膨張し、耐水性の高い杉材が使われます。箍（たが）は竹で縛り、強度を高めています。かつては多くの桶職人が存在し、たらい舟を新調していましたが、職人の減少に伴い、近年ではFRP加工を施し保存性を高める工夫も行われています。

磯ねぎ漁での活用

現在でも、たらい舟は磯際での漁、佐渡で「磯ねぎ漁」と呼ばれる漁に使われています。漁師（海女）がたらい舟に乗り、箱眼鏡で水中を覗きながら、ヤス、ケイカギ、鎌などの道具を使ってワカメ、サザエ、アワビなどの魚介類を採取します。エンジン付きのたらい舟も存在しますが、漁師の高齢化と後継者不足が課題となっています。

観光資源としてのたらい舟

漁業用とは別に、観光客向けのたらい舟も存在します。こちらは漁業用よりも一回り大きく、全国版の時刻表にも運行案内が掲載されるほどです。時刻表に掲載されている乗り物としては最小のものとして知られています。

全国各地のたらい舟

佐賀県神埼市では、クリークに浮かんだ菱の実を摘み取る際に「ハンギー」と呼ばれるたらい舟が用いられます。岐阜県大垣市には、関ヶ原の戦いで落城する大垣城から、石田三成の家臣の娘「おあむ」がたらいに乗って逃れたという『おあむ物語』にちなんだ観光川下り用のたらい舟があります。

他にも、福島県郡山市の湖まつりや和歌山県岩出市の農家体験イベントなど、全国各地でたらい舟を体験できる場所があります。

その他の情報

2007年には、力屋観光汽船の従業員がたらい舟で佐渡海峡横断に成功し、佐渡島から本土の柏崎港までを渡りきりました。また、葛飾北斎の『北斎漫画』にも、たらい舟に乗る人物の絵が描かれています。

たらい舟は、その歴史、技術、文化、そして現代における様々な利用を通して、日本の伝統文化の一端を担っています。

参考資料
小木たらい舟製作技術保存会
盥[船]とは - コトバンク
* 小木のたらい舟製作技術 - 文化遺産オンライン（文化庁）

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