もっきり屋の少女

もっきり屋の少女

『もっきり屋の少女』は、つげ義春が1968年8月に『ガロ』で発表した16ページの短編漫画です。つげ義春の代表作の一つであり、「旅もの」に分類される作品群の7作目にあたります。

概要

『沼』や『紅い花』にも登場したおかっぱ頭の少女が登場し、大人になる前の少女が持つ特有のエロスと、つげ義春独自の叙情性が感じられる作品です。1966年から1968年はつげ義春が最も精力的に作品を制作していた時期であり、本作はその時期に描かれました。

それまでにもつげ義春は『沼』、『海辺の叙景』、『紅い花』、『オンドル小屋』などで少女を題材にした作品を描いてきましたが、『もっきり屋の少女』では、少女は観念的な存在から現実的な存在へと変化し、より肉感的に描かれています。

制作背景

1966年に会津を旅した際、つげ義春は現地の茶屋で会津地方の方言に興味を持ち、手帳に書き写しました。その方言の一部が本作で使用されています。特に「むげいのおどっつあはきぐしねくてやんだおら」という方言はほぼそのまま使用されています。当初、つげ義春は方言をテーマにした作品を構想していましたが、最終的に本作として結実しました。

また、1967年に旅館を再訪した際、宿の少女が言った「どてらを着て寝ると切ない」という言葉が、本作の少女コバヤシチヨジのセリフとして使用されています。つげ義春は本作で、方言というよりも言葉の使い方に対する興味を描いています。例えば、コバヤシチヨジが「みじめです」という言葉を繰り返すことで、単純な言葉で自分の気持ちを表現すること、言葉と意識の関係を描こうとしました。主人公の青年が言う「ほんとうはこの土地の言葉づかいに興味を持っただけなのさ」というセリフは、つげ義春なりの言葉と意識に対する答えです。

あらすじ

方言に興味を持った青年は、旅先で出会ったおかっぱ頭の少女コバヤシチヨジと出会います。チヨジは1銭5厘で買われてきた身の上を語り、青年に対し「みじめです」と告白します。青年が居酒屋で寝ていると、チヨジが見知らぬ客に乳首を触らせています。それは赤い靴を賭けた行為であり、チヨジはいつも負けているようです。

青年は「もともと考えることなどなかったのだからね」と言い残し、釣り竿を持って立ち去ります。店からは「さあ、チヨジもう一度いくか」「それ、頑張れチヨジ！」という声が聞こえてきます。青年は真似をして「頑張れ、チヨジ！」と左手を上げながら立ち去ります。

作品の舞台と方言

少女チヨジの言葉遣いは会津の方言をベースにしていますが、舞台は明らかにされていません。また、チヨジの言葉は作者によって脚色されています。つげ義春が会津を旅したのは1967年以降ですが、本作のきっかけとなったのは最初の旅での体験だと考えられます。

評価

高野慎三は、『ゲンセンカン主人』の翌月に本作が発表されたことに驚きを示し、少女が観念的な存在から現実的な存在へと変貌を遂げた点を評価しています。チヨジがより肉感的になっているのは、作者と少女の距離を物語っていると指摘しました。

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