アイナー・アーロン・スワン:ジャズ時代を彩った多才な音楽家
アイナー・アーロン・スワン(Einar Aaron Swan、
1903年3月20日 -
1940年8月8日)は、20世紀初頭のアメリカ音楽界で活躍した人物です。ミュージシャン、アレンジャー、作曲家、そして作詞家としても才能を発揮し、特に
ジャズ時代においてその名を刻みました。本名はアイナー(アイノ)・ウィリアム・スワンといいます。
生い立ちと初期の音楽活動
スワンは、世紀転換期にフィンランドから
アメリカ合衆国へ移住した両親のもと、マサチューセッツ州で誕生しました。9人兄弟の2番目として育ち、熱心なアマチュア音楽家だった父親の影響を受け、幼い頃から音楽に親しみました。彼は
ヴァイオリン、
クラリネット、
サクソフォーン、そして
ピアノといった複数の楽器を習得しました。
16歳になる頃には、すでに自身のダンスバンド「Swanie Serenaders」を結成し、約3年間にわたりマサチューセッツ州内を巡業しました。当初は
ヴァイオリンを主な楽器としていましたが、この頃に
アルト・サクソフォーンへと転向しています。
ニューヨークでの躍進
1924年頃、スワンは大きな転機を迎えます。著名なバンドリーダーであるサム・ラニンにその才能を見出され、ニューヨークの由緒ある社交場、「ローズランド・ボールルーム」の専属楽団に迎え入れられたのです。ここでは、コルネット奏者のレッド・ニコルズをはじめ、ドラマーのヴィック・ベルトン、チューバ奏者のジョー・タートといった当時のトッププレイヤーたちと共演し、その音楽性を磨きました。この時期から、彼は自身の手による作曲や、オーケストラのための編曲も積極的に行うようになりました。また、「ローズランド・ボールルーム」で活動していた
フレッチャー・ヘンダーソンのオーケストラをサポートするなど、当時の音楽シーンの中心で重要な役割を果たしました。
ラニンのバンドで5ヶ月間活動した後、
1925年にはヴィンセント・ロペスのバンドに加わり、イギリスへのツアーに参加しました。帰国後も、マイク・モジエロ、ザビア・クガート、そしてかつてのバンド仲間であるジョー・タートらと共に新たなバンドを結成するなど、精力的に活動を展開しました。
作曲・編曲家としての確立
音楽家としての活動と並行して、スワンは作曲・編曲の分野でも頭角を現し始めます。間もなく、バーハーバー・オーケストラによって彼が作曲した「Trail of Dreams」がリリースされました。1930年を迎える頃には、演奏者としての活動を一旦休止し、アレンジャーとしての仕事に重点を置くようになります。ラジオ番組の音楽を担当するなど、その編曲スキルは多くの場面で必要とされ、
エディ・カンター、デイヴ・ルビノフ、レイモンド・ペイジといった当時の人気アーティストや楽団とも数多くコラボレーションしました。
永遠の名曲「When Your Lover Has Gone」
彼のキャリアにおける最大の功績の一つは、1931年に作詞・作曲を手がけた楽曲「When Your Lover Has Gone」です。この曲は、同年に公開された
ジェームズ・キャグニー主演の映画『ブロンド・クレイジー』でフィーチャーされたことをきっかけに、大きなヒットとなりました。その普遍的なメロディと歌詞は時代を超えて愛され、
ジャズやポピュラー音楽界の錚々たる面々によってカバーされています。歌い手には、リー・ワイリー、
ルイ・アームストロング、
レイ・チャールズ、エセル・ウォーターズ、
ビリー・ホリデイ、
サラ・ヴォーン、そして
フランク・シナトラといった、歴史に名を残すアーティストたちが名を連ねています。この一曲は、スワンの作曲家としての才能を世に知らしめることとなりました。
1939年には、アル・スティルマンが作詞、トミー・ドーシーとスワンが作曲を手がけた「In the Middle of a Dream」(夢の途中)も発表され、トミー・ドーシー自身の楽団に加え、
グレン・ミラーやレッド・ノーヴォといった人気バンドによって録音されています。
早すぎる死
アイナー・アーロン・スワンは、まさにキャリアの円熟期を迎えようとしていた
1940年8月8日、ニューヨーク州グリーンウッドレイクにて、わずか37歳という若さでこの世を去りました。死因は脳出血でした。
ジャズエイジを彩り、後世に残る名曲を生み出した多才な音楽家の早逝は、当時の音楽界にとって大きな損失となりました。
彼の作品、特に「When Your Lover Has Gone」は、現在でも多くのアーティストによって歌い継がれており、その遺した功績は今なお輝き続けています。
代表作
"White Ghost Shivers"
"Trail of Dreams" (1926年)
"When Your Lover Has Gone" (1931年)
"In the Middle of a Dream" (1939年)