アイルランドのイスラム教

アイルランドのイスラム教：歴史、コミュニティ、そして現代

アイルランドにおけるイスラム教は、近年著しい発展を遂げているものの、歴史的には比較的新しい存在です。1950年代以降、徐々にムスリム人口が増加し始め、特に1990年代以降その勢いを増しています。2011年の国勢調査では、アイルランドの人口の1%強を占める49,204人のムスリムが確認され、その増加は顕著です。しかし、このムスリム人口の大部分はアイルランド国籍を持たない移民やその子孫であることが特徴です。

イスラム教の初期とジャガイモ飢饉

ムスリムによるアイルランドへの言及は、イドリースィーの『タブラ・ロジェリアナ』における「偉大なるアイルランド」という記述が最初期のものであるとされています。歴史的関わりとしては、1845年のジャガイモ飢饉への対応が有名です。オスマン帝国のスルタン・アブデュルメジト1世は、アイルランドに食料援助を表明し、3隻の船に大量の食料と1000ポンドの寄付を送り届けました。この支援はイギリス政府による妨害をくぐり抜け、ドロヘダ港に極秘裏に届けられたと伝えられています。しかし、この時の記録は現存していないと考えられています。

ムスリムコミュニティの形成と発展

アイルランドにおけるイスラム組織は、多様な民族的背景を持つムスリムコミュニティを反映して、複雑な発展を遂げてきました。1959年に設立されたダブリンイスラム協会が国内初のイスラム組織であり、その後、アイルランドイスラム財団と改称しました。当初は礼拝場所が不足していたため、自宅やホールを借りて礼拝を行っていました。1976年には、サウジアラビアのファイサル国王らの支援を受けて、アイルランド初のモスクとイスラム文化センターがダブリンに設立されました。その後、1983年には現在のダブリン・モスクとイスラム文化センターがサウス・サーキュラー・ロードに移転しています。コークにもモスク建設のための募金活動が行われているなど、コミュニティは着実に成長しています。

1992年には、ムーサジー・バムジー氏がアイルランドで初のイスラム系国会議員となりました。これは、アイルランドにおけるムスリム社会の政治的な影響力が増大してきたことを示す重要な出来事です。

人口と民族的背景

アイルランドのムスリム人口は、2002年、2006年と増加を続け、2011年には49,204人に達しました。この増加は、経済状況やイスラム諸国からの亡命など、複数の要因が重なった結果です。しかし、ムスリムの大半が移民または移民の子孫であるため、アイルランド国籍を持つムスリムの割合は全体の30%程度にとどまっています。これは、イギリスやフランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国におけるムスリムコミュニティの構成と似通った状況です。

モスクと宗派

アイルランドには、スンナ派、シーア派、アフマディーヤなどの様々な宗派が存在し、それぞれモスクや文化センターを運営しています。2006年には、スンナ派とシーア派のイマームが集まってアイルランドイマーム協議会が設立されるなど、組織化も進んでいます。また、2003年にはコーランのアイルランド語訳が刊行されています。

ムスリム学生

アイルランドの主要大学には、ムスリム学生のための学生イスラム協会（ISOC）が設立され、ムスリム学生の社会参加を支援しています。これらの協会は、アイルランド社会へのムスリム学生の積極的な関与を促進する重要な役割を果たしています。

まとめ

アイルランドのイスラム教は、歴史的には新しいながらも、急速に成長し、多様なコミュニティを形成しています。ジャガイモ飢饉の際のオスマン帝国の支援から現代のモスク建設、そしてムスリム学生の活躍まで、アイルランドにおけるイスラム教の歴史と発展は、多様な文化が共存するアイルランド社会の一端を反映しています。今後も、アイルランドのムスリムコミュニティは、社会に貢献しながら、その存在感を増していくものと考えられます。

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