アイルランドの警察

アイルランド警察 (Garda Síochána na hÉireann)

アイルランド警察、正式名称「Garda Síochána na hÉireann」（アイルランド治安防衛団）は、アイルランド共和国の国家警察です。アイルランド語ではGarda Síochána、英語ではGuardians of the Peace of Irelandと称されます。一般にはGarda Síochána (ガルダ・シーハーナ) または Garda（ガルダ）と呼ばれ、複数形はGardaí （ガルディー）です。本部をダブリン市内フェニックス・パークに置いています。

名称について

組織としての正式な呼称はGardaであり、Gardaiは警察官を指す際に用いられます。guardsはややくだけた言い方です。かつて女性警察官はbangharda (バンガルダ) と呼ばれていましたが、現在では使われていません。警察官を指す場合は、男女問わずGardaまたはguardが用いられます。

組織

警察組織は長官（Commissioner）が統率し、その下に組織運営と捜査を担当する2名の副長官がいます。さらに、6名の地方支部長と特定のテーマを担当する4名の長官補佐がいます。経理担当には、警察官とは異なる文民が任命されます。警察で働く人々は、軍と同様に警官と文民に分けられます。

6つの地方支部は、ダブリン首都圏、東部、北部、南部、南東部、そして西部です。各地方支部長の下には約25名の警視正（Chief Superintendent）が配置され、それぞれが地区（Division）を担当します。地区は警視（Superintendent）が担当する複数の区域（District）で構成され、各区域には数名の警部が配置されます。さらにその下には小区域（Subdistrict）があり、複数の巡査長（Sergeant）が担当します。

通常、一つの小区域には一つの警察署が設けられ、その区域の重要度に応じて警察官の数が配置されます。一般警察官の階級はGardaであり、日本の巡査に相当します。警察には約1,000人の文民がおり、医療、経理、運転、情報技術、写真撮影、研究などの職務を担当しています。

警官の非武装化

アイルランドの街中で見かける制服警官は、通常、火器を携帯していません。これは、通常の警察官は木製の警棒以上の武器を持つべきではないという考えに基づいています。設立当初は武装していましたが、後に非武装化の方針に転換しました。当時のイギリス政府のアイルランド総督府は、王立アイルランド警察隊(Royal Irish Constabulary)からの反対を受けましたが、初代長官マイケル・ステインズが、警察活動は公僕としての士気によって成り立つと主張し、非武装化を推し進めました。この決定は、政治的混乱が続いた建国初期のアイルランドにおいて、警察への信頼を獲得する上で重要な役割を果たしました。ただし、最近の報告では、12,000人の全職員のうち約3,000人が拳銃を携帯しており、これには特殊部隊や公安警察が含まれています。

スコット・メダル

スコット・メダルは、勇敢な行動を行ったアイルランド警察官に授与される勲章です。ニューヨーク市警察名誉本部長を務めたアメリカの軍人、ウォルター・スコットによって創設されました。そのため、「勇気」の綴りがアメリカ英語の“Valor”となっています。警察長官が対象者を選抜し、司法大臣が授与します。近年では、2000年にIRA暫定派との銃撃戦で殉職した警官、ジェリー・マッケイブの行動に対してスコット・メダルが贈られました。

国連PKO活動への参加

1989年以降、アイルランド警察は国連PKO活動に参加しています。最初の派遣はナミビアへの50名の警察官でした。その後、アンゴラ、カンボジア、キプロス、モザンビーク、南アフリカ、旧ユーゴスラビア地域などへ部隊を派遣しています。1995年5月18日には、旧ユーゴスラビア地域における国連保護軍活動中、ポール・P・レイドがサラエヴォの狙撃者通りで射殺され、殉職者第一号となりました。

歴史

現在のアイルランド警察の前身であるCivic Guardは、1922年2月にアイルランド暫定政府によって設立されました。これはアイルランド自由国の建国に備え、それまで存在した王立アイルランド警察隊（Royal Irish Constabulary; RIC）の任務を引き継ぐことを目的としていました。1922年8月には、アイルランド独立運動の指導者、マイケル・コリンズが英国政府のアイルランド総督とダブリン城で会談する際に同行しています。

1923年8月8日に法律が成立し、The Garda Síochánaという名称の警察部隊を設置することが定められました。これによりCivic Guardは解体され、近代的な警察が誕生しました。ダブリンでは当初、ダブリン首都警察がその任務にあたっていましたが、1925年に警察本部に吸収されました。

近年の不正疑惑

近年、警察に関係するスキャンダルが発生しており、警察の権威が揺らいでいます。1976年3月のサリンズ列車強盗事件では、捜査を巡る問題が浮上し、司法の乱用、逮捕者に対する脅迫と拷問に関して裁判が行われました。有罪となった警察官には大統領の恩赦が与えられました。ケリー・ベイビーズ裁判などのスキャンダルも警察の評判を悪化させました。

1990年代から2000年代初めにかけては、警察内部の汚職と不正疑惑が発覚しました。ドネゴール州を舞台としたモリス裁判では、一部警官がIRA暫定派の情報提供者をでっち上げ、ドネゴールにあるナイトクラブのオーナーを麻薬取引の罪で、居酒屋の主人を過失致死でそれぞれ冤罪にもかかわらず逮捕したとされています。

また、シン・フェイン所属の市議会議員エディー・フラートンがアルスター防衛同盟に殺害された事件では、捜査が進展しないことが問題となっています。押収した物品を私物としていた問題も明らかになりました。

2004年には、国営放送RTÉの報道番組において、逮捕者の尋問の際に暴力を振るっているという問題が取り上げられました。巡回裁判所の元判事は、彼が担当した裁判で警官が偽証をしていたと示唆し、内務大臣のディック・ロッシュは警察による暴力問題を非難しました。警察長官は番組における偏向ぶりを批判しています。反グローバリズム団体であるリクレイム・ザ・ストリーツのデモに対し、警官が暴力を振るうビデオも公開され、この事件では警官1人が逮捕されています。

外部リンク

アイルランド治安防衛団公式サイト
 アイルランド警察の歴史
 ダブリン城内の警察博物館

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