アイン・ジャールートの戦い

アイン・ジャールートの戦い

アイン・ジャールートの戦いは、1260年9月3日にシリア・パレスチナのアイン・ジャールートで行われた決定的な戦闘です。こちらの戦闘では、クトゥズ率いるマムルーク朝軍が、キト・ブカ率いるモンゴル帝国軍及びキリスト教徒連合軍を打ち破り、モンゴル帝国の西進を阻止しました。この戦いは、中世の歴史において非常に注目すべき事件であり、西アジアにおける権力バランスを大きく変える出来事となりました。

背景

アイン・ジャールートの戦いまでの経緯を理解するためには、まずモンゴル帝国の西アジアへの進軍について触れる必要があります。1253年に発足したフレグの指揮下の遠征軍は、1258年にバグダードを征服し、イスラム社会の象徴であったアッバース朝を滅ぼしました。西進を続けたモンゴル軍は、遊牧の地でもあるアゼルバイジャンからシリア北部への侵攻を果たし、アレッポを粉砕しました。

しかし、アレッポ陥落の際に、フレグの兄であるモンゴルのカアン、モンケが死去したという報が届き、フレグは本隊を帰還させることを決定しました。その際、フレグはナイマン族出身かつネストリウス派のキト・ブカを、シリアに残して攻略を命じました。キト・ブカはダマスカスを攻め、そこでアイユーブ朝に降伏を勧告しますが、マムルークのスルターンであるクトゥズはこれを拒否。対してキト・ブカは、モンゴル軍とキリスト教徒の連合を引き連れ、マムルーク朝への侵攻を企てました。

戦闘の経過

戦闘は9月3日に始まり、ガリラヤの丘陵地帯で激突しました。この地域には小さな川が流れており、その名前から「アイン・ジャールート」と称されました。モンゴル軍は約1万人の小規模な部隊でしたが、数で優位だったマムルーク朝軍は全軍を一度に投入するのではなく、まずバイバルスが率いる先鋒隊が前に出て行きました。

モンゴル軍はバイバルス隊を迅速に攻撃しようとしましたが、待ち構えていたマムルークの本隊がキト・ブカ率いる部隊を包囲し、猛攻を仕掛けました。その結果、モンゴル軍は壊滅し、キト・ブカは捕らえられたとも、あるいは戦死したとも言われています。シリア駐留のモンゴル軍が敗北したことにより、マムルーク朝はダマスカスやアレッポを取り戻し、シリア全域の支配権を確固たるものにしました。

戦後の影響

アイン・ジャールートの戦いの結果、マムルーク朝はシリアを北上し、残ったモンゴル軍を壊滅する過程で広大な領域を平定しました。しかし、目立った戦功を挙げたバイバルスと、総司令官のクトゥズとの間に対立が生じます。バイバルスは自らの権力を強化しようとしていたのに対し、クトゥズは彼の独立を恐れました。この内紛により、軍中クーデターが発生し、クトゥズは殺害され、バイバルスが新たなスルターンに即位します。

バイバルスはモンゴル軍の進攻を退けた英雄として各地で名を馳せることになります。そして、彼はエジプトとシリアの王として強固な地位を築くことに成功しました。一方、モンゴル側では、フレグの帰還後に起きた内紛により、彼の軍は劣勢に立たされ、シリアへの再侵攻を行うことができませんでした。

アイン・ジャールートの戦いは、モンゴル帝国の西方への拡大がここで停止したことを象徴する出来事であり、後に続く外交や軍事活動においても深い影響を与えることとなりました。

もう一度検索