アウトリガーカヌー

アウトリガーカヌーは、南太平洋を中心に用いられるカヌーの一種で、その最大の特徴は、カヌー本体の片側または両側に張り出したアウトリガー（浮き）です。このアウトリガーは、多くのポリネシアやミクロネシアの言語で「ama（アマ）」と呼ばれ、カヌー自体は、タヒチ語で「va'a（ヴァア）」、ハワイ語で「wa'a（ワァ）」、マオリ語で「waka（ワカ）」または「vaka（ヴァカ）」など、地域によって異なる名称で親しまれています。

起源

アウトリガーカヌーの正確な起源は未だ解明されていませんが、オーストロネシア語族の拡散と密接な関係があることは確かです。中国で発達したいかだから発展したという説や、丸木舟から進化したという説などがありますが、確固たる証拠に乏しく、定説には至っていません。しかし、東南アジア島嶼部で丸太をくり抜いた刳り抜き船や、それに舳先や舷側を加えた準構造船にアウトリガーを装着した形式の船舶が発達したことは事実です。

主な種類と分布

東南アジア島嶼部では、主に船体の両側にアウトリガーを取り付けたダブル・アウトリガーカヌーが用いられてきました。現在でも、インドネシア周辺で特に多く見られ、ニューギニア南部からオーストラリア北東部、西はマダガスカルやコモロ、アフリカ東岸などのインド洋西部、東はオセアニア、特に南米沿岸のラパ・ヌイ（イースター島）まで、広く分布しています。

外洋航海が盛んになるにつれて、荒波による破損を防ぐため、アウトリガーを片側だけにつけたシングル・アウトリガーカヌーが考案されたと考えられています。ダブル・アウトリガーカヌーの場合、波のうねりにより両側のアウトリガーが持ち上げられると、腕木に過剰な負荷がかかり破損するリスクがありました。シングル・アウトリガーであれば、船体が傾くだけで、破損につながるような負荷はかかりません。また、東南アジア島嶼部からメラネシア、ミクロネシア、ポリネシア方面への航海は、貿易風に逆らう形になりますが、ダブル・アウトリガーカヌーは風上への航行が苦手で、実用的ではありませんでした。

しかし、アメリカの船研究家エドウィン・ドーランは、実験を通じてダブル・アウトリガーカヌーの航行能力がシングル・アウトリガーに劣らないことを示し、全体として安定した船であると主張しています。

現在、航海カヌーとしてシングル・アウトリガーカヌーは、ミクロネシアや域外ポリネシアの一部で使用されています。また、パドリングで進むシングル・アウトリガーカヌーは、ミクロネシアやポリネシア各地で広く利用されています。近年では、シングル・アウトリガーカヌーのレースも盛んに行われており、フランス領ポリネシアのフアヒネ島で行われるハワイ・ヌイ・ヴァアは、世界最大規模のカヌーレースとして知られています。競技用のシングル・アウトリガーカヌーには、OC-1、OC-4、OC-6などの規格があります。

さらに、人類が遠隔地のオセアニア海域に拡散していく過程で、より大きな浮力を確保し、長期間の航海に対応できるよう、カヌー本体を左右に並べたダブルカヌーがポリネシア文化で考案されました。このダブルカヌーの登場によって、ポリネシア人の航海術は急速に発達し、ハワイ、イースター島、ニュージーランドを結ぶポリネシアン・トライアングルと呼ばれる広大な地域に移住していきました。ダブルカヌーを祖とするカタマランタイプの船体は、近代においてもヨットや連絡船など、様々な用途に合わせて発展しています。

発達史

初期の研究者であるHeine-Geldern（1932）やHornell（1943）は、ダブルカヌー（カタマラン）がアウトリガーカヌーから進化したと考えていましたが、オーストロネシア文化を専門とする現代の研究者Doran（1981）やMahdi（1988）は、その逆であると主張しています。

彼らの説によると、2つのカヌーを結合したダブルカヌーは、2つの丸太を結合して作る「ミニマル」ないかだから直接発展したとされています。この単純なダブルカヌーは、時間の経過とともに非対称のダブルカヌーへと発展し、一方の船体がもう一方の船体よりも小さくなりました。さらに小さくなった船体がプロトタイプのアウトリガーとなり、アウトリガーカヌーが誕生したと考えられています。その後、このアウトリガーカヌーは、オセアニアでリバーシブル（前後を入れ替え可能）なシングルアウトリガーカヌーへと進化しました。最終的に、シングルアウトリガーカヌーがダブルアウトリガーカヌー（または三胴船）に発展したとされています。

この説は、海域東南アジア、マダガスカル、コモロといったオーストロネシア人の故地で、タッキング時（風上方向に航行するための操作）の安定性を重視してダブルアウトリガーが好まれる理由を説明できます。しかし、東南アジアでも少数ながらシングルアウトリガーを使用する地域もあります。対照的に、ミクロネシアやポリネシアのような遠隔地に拡散した子孫集団は、ダブルアウトリガーの技術があまり発達せず、ダブルカヌーとシングルアウトリガーカヌーを使い続けました（西メラネシアは例外）。彼らは、アウトリガーがタック時に風下を向いた際の不安定性に対処するため、リバーシブルシングルアウトリガーを使用し、風向きに合わせて船の前後を入れ替えるシャンティング（shunting）という技術を編み出しました。

以上の発達史はあくまで一つの推論であり、決定的な証拠があるわけではありません。カヌーは実用品であり消耗品であるため、考古学的な証拠がほとんど残っておらず、資料的な制約もあります。絵画資料があったとしても、平面であるため、片舷から描かれた絵ではシングルアウトリガーなのかダブルアウトリガーなのか判別が難しいという課題もあります。

参考

19世紀にイギリスの探検家クックが太平洋を探検した際、同じ言語を使う人々が広範囲の島々に住んでいることを発見し、彼らがどのようにしてこれらの島々に移住したのかが謎とされました。この謎を解明するため、アウトリガーカヌーやダブルカヌーによる航海技術に関する研究が行われ、デヴィッド・ルイス、リチャード・ファインバーグ、ベン・フィニー、ミミ・ジョージらの研究によって、星空や海流、気象などを利用した航海術（スター・ナビゲーション、ウィンド・コンパスなど）の存在が明らかになりました。

関連項目

ベンタ
トリマラン
航海カヌー

脚注

参考文献:

後藤明「オセアニアのカヌー研究再考 ――学史の批判的検討と新たな課題――」（pdf）『人類学研究所 研究論集』第1号、217-254頁、2013年。
Hornell, James (1932), “Was the Double-Outrigger Known in Polynesia and Micronesia? A Critical Study”, The Journal of the Polynesian Society 41 (2 (162)): 131–143
Beheim, B. A.; Bell, A. V. (2011-02-23), “Inheritance, ecology and the evolution of the canoes of east Oceania”, Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 278 (1721): 3089–3095, doi:10.1098/rspb.2011.0060, PMC 3158936, PMID 21345865

関連書籍:

片山一道『海のモンゴロイド』
後藤明『海を渡ったモンゴロイド』
Tommy Holmes, Hawaiian Canoes
大内青琥『おじいさんのはじめての航海』

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