アウースル・ウトックアンの不運

アウースル・ウトックアンの不運

『アウースル・ウトックアンの不運』（原題：The Weird of Avoosl Wuthoqquan）は、アメリカ合衆国の幻想文学作家、クラーク・アシュトン・スミスによって執筆された短編ホラー小説です。1931年12月には完成しており、パルプ雑誌『ウィアード・テールズ』の1932年6月号に掲載されました。本作は、スミスが創造した架空の古代大陸「ハイパーボリア」を舞台とした作品群の一つに数えられています。

あらすじ

物語は、ハイパーボリア大陸の主要都市コモリオムに住む、大陸最大の富豪でありながら極めて強欲な金貸し、アウースル・ウトックアンの元に乞食が現れる場面から始まります。アウースルが施しを冷たく拒絶すると、乞食は態度を急変させ、アウースルの破滅を予言しますが、彼はその言葉を全く相手にせず乞食を追い払います。

数ヶ月後、アウースルのもとへ一人の異邦人の商人が訪れ、二つの見事なエメラルドを売りに来ます。アウースルは、この商人が盗賊であり、手に入れたばかりの盗品を処分したいと考えていることを見抜きます。彼はその足元を見て、エメラルドの真の価値をはるかに下回る破格の安値で宝石を入手することに成功します。

その夜、アウースルが自らの金庫の中で買い取ったエメラルドを眺め、その安価な入手を喜んでいると、二つの宝石のうち一つが突如として動き出し、転がり始めます。宝石はまるで意思を持つかのように、アウースルの家から外へと飛び出していきました。アウースルは慌ててそれを追いかけますが、転がるエメラルドには奇妙な力が働いているかのようで、追いつくことができません。

宝石はコモリオムの街を抜け出し、荒野を越えて、やがて一つの森の中にある洞窟へと入っていきます。財産への執着に駆られたアウースルは、迷わずその後を追って洞窟の中へと足を踏み入れました。

洞窟の内部は、想像を絶する光景が広がっていました。そこには夥しい数の財宝、金銀財宝や宝石が山と積まれ、まさに宝石の海と呼ぶべき光景が広がっていたのです。アウースルはその財宝に目を奪われますが、足を踏み入れた途端、宝石の山に埋もれてしまい、身動きがとれなくなってしまいます。

その時、洞窟の奥から異形の怪物が姿を現します。怪物は、転がるエメラルドが数日前に盗賊によって持ち出された自身の財宝であり、魔力を使って呼び返したのだと説明します。そして怪物は、以前宝石を盗んだ痩せた盗賊には逃げられたが、代わりに肥え太った男（アウースル）が自らやってきたことに喜びを示します。宝石に埋もれて身動きがとれないアウースルを、怪物は引きずり出し、そのまま貪り食ってしまいます。

クトゥルフ神話との関連

クラーク・アシュトン・スミスは、クトゥルフ神話の提唱者であるオーガスト・ダーレスからの質問に対し、1937年4月13日付の書簡で、邪神ツァトゥグァが登場する自身の作品として特定の五篇を挙げていますが、『アウースル・ウトックアンの不運』はそのリストに含まれていません。しかしながら、本作に登場する怪物が台詞の中で「ツァトゥグァの黒き祭壇にかけて」と誓う言葉を発していることから、直接的な関与ではないにしても、何らかの形でツァトゥグァやその眷属と関係がある可能性が、読者や研究者の間で指摘されています。

主な登場人物・用語

アウースル・ウトックアン: コモリオム最大の金貸し。大陸でも有数の大富豪でありながら、極端なまでの守銭奴。肥満体型の男性として描写されます。自身の強欲さゆえに奇妙な運命に巻き込まれます。
乞食: 物語の冒頭に登場し、アウースルに施しを求めますが拒絶されます。その後、アウースルに対して破滅の予言を残します。
異邦人の商人: アウースルにエメラルドを安価で売却する人物。その正体は、怪物の洞窟から宝石を盗み出した盗賊です。
怪物: 洞窟に莫大な財宝を蓄えている異形の存在。ずんぐりとした体に蟇蛙のような顔を持ち、巨大な烏賊の触腕が生えています。人語を解する知性を持っています。

収録

『ヒュペルボレオス極北神怪譚』（創元推理文庫、大瀧啓裕訳）
『魔術師の帝国2 ハイパーボリア篇』（ナイトランド叢書、安田均訳、邦題「アブースル・ウトカンの悲惨な運命」）
* 『アトランティスの呪い』（ポプラ社文庫、榎林哲訳、邦題「二つのエメラルド」）

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