ツァトゥグァ

ツァトゥグァ：クトゥルフ神話の混沌たる存在

ツァトゥグァ（Tsathoggua）は、クトゥルフ神話において重要な役割を担う旧支配者の一柱です。クラーク・アシュトン・スミスによって創造され、後にH・P・ラヴクラフト（以下HPL）の作品にも登場することで、神話の枠組みの中で確固たる地位を築きました。サドグイ、サドゴワア、ゾタクアといった異称でも知られています。

ツァトゥグァの起源と多様な解釈

ツァトゥグァは、当初は古代の邪教の神として創造されましたが、クトゥルフ神話が体系化される過程で、他の邪神たちと同様に旧支配者のカテゴリーに分類されるようになりました。

スミスによる初出は1931年11月号の『ウィアード・テイルズ』掲載の短編『サタムプラ・ゼイロスの物語』です。しかし、興味深いことに、HPLはスミスの作品発表前に当たる1930年に執筆した『闇に囁くもの』（1931年8月号発表）で、ツァトゥグァの名と起源に触れています。

HPLはスミスのツァトゥグァを気に入り自身の作品に取り入れましたが、スミスの原設定を厳密に踏襲せず、独自の解釈で描写しました。そのため、スミス版とHPL版のツァトゥグァには大きな差異が見られます。

初期のクトゥルフ神話解説書では、スミス、HPL両氏の作品に加え、ダーレス神話を参照してツァトゥグァの設定が要約されました。この過程で、スミス、HPL、ダーレスそれぞれの解釈が混ざり合い、ツァトゥグァ像はさらに複雑さを増しました。

ツァトゥグァは地球外起源の存在です。スミスは土星（サイクラノーシュ）からの到来を、HPLは北米地底の「暗闇のンカイ」からの到来を描写しました。その到来方法や現在の居場所は不明瞭であり、ツァトゥグァの所在は神話の謎として残されています。フランシス・レイニーやリン・カーターは、ツァトゥグァを四大霊の地の精と分類し、旧神への反逆によって幽閉された存在とする解釈も存在します。

スミスはツァトゥグァを数多くの作品に登場させましたが、ツァトゥグァ自身を明確に描写したのは『七つの呪い』のみです。同作品では、「空腹にさいなまれても、その場から動かず、聖なる怠惰のまま生贄を待ち続ける」と表現されています。クトゥルフ神話TRPGでは、他の邪神と比較して悪意の少ない存在として描かれています。

ツァトゥグァの容姿と眷属

ツァトゥグァは、巨大な腹部とヒキガエルに似た頭部、突き出した舌、半ば閉じられた眠たげな目を特徴とします。黒い体表には短い柔らかな毛が生え、コウモリとナマケモノを合わせたような姿とされています。『闇に囁くもの』では「一定した形のない蟇蛙のような生き物」と表現されています。クトゥルフ神話TRPGでは、コウモリのような耳と体毛を持ち、本質は無定形で自由に姿を変えることが可能とされています。その大きさは、クトゥルフなどの他の旧支配者ほど巨大とはされておらず、TRPGの設定ではホッキョクグマやイタチザメと同程度とされています。スミスは小説だけでなく彫刻も手がけており、ツァトゥグァの像を制作したと伝えられています。

ツァトゥグァには複数の眷属がいます。不定形の黒いタールのような生物は、スミスやHPLの作品、TRPGなどによって描写が異なっています。TRPGでは「無形の落とし子（Formless Spawn）」と名付けられ、下級の奉仕種族と位置付けられています。上位眷属には、ヒキガエルのような姿をした怪物がおり、TRPGでは「ツァトゥグァの末裔（Scions of Tsathoggua）」と呼ばれ、Spawnよりも上位に位置付けられています。また、ハイパーボリアの原人種族であるヴーアミ族もツァトゥグァを崇拝する眷属です。

ツァトゥグァの系譜と関連する存在

ツァトゥグァの系譜は、スミスとHPL、リン・カーターなどによって複数の解釈が存在します。スミスはツァトゥグァの父をギズグス、母をズスティルゼムグニとし、その祖先をアザトース、サクサクルースと繋げています。一方、HPLは異なる系譜を提示し、ツァトゥグァをイェブの子と位置付けます。リン・カーターは、ツァトゥグァをヨグ＝ソトースの異母の子とする解釈も提示しています。

ツァトゥグァの親族には、父ギズグス、叔父にあたるフジウルクォイグムンズハーとクトゥルフ（トゥルー）、母ズスティルゼムグニ、妻シャタク、子供ズヴィルポグアなどがいます。クトゥルフは、創造者によって異なる系譜が提示されているため、ツァトゥグァとの関係も解釈が分かれています。ヴルトゥームも、創造者や解釈によってツァトゥグァと兄弟とされる場合もあります。

ツァトゥグァは、四大霊の地の精に属するとされ、クトゥグア（火の精）、ラーン＝テゴス（大気の精）、ゴル＝ゴロス（ヒキガエルの姿をした邪神）、イホウンデー（ヘラジカの女神）、イグ（蛇神）など、多くの神話的実体と関連しています。

ヴーアミ族：ツァトゥグァを崇拝する原人種族

ヴーアミ族は、ハイパーボリア大陸の原人種族であり、ツァトゥグァを崇拝する獣人として知られています。スミスは『アタマウスの遺言』と『七つの呪い』でヴーアミ族を描写しました。彼らは凶暴で野蛮な種族であり、ツァトゥグァの加護を受け、ハイパーボリアの人間種族と敵対しています。リン・カーターはヴーアミ族の設定をさらに掘り下げ、大気の神ラーン＝テゴス配下のノフ＝ケーとの対立関係や、古文書「ヴーアミ碑板群」の存在などを提示しています。ロバート・M・プライスは、ノフ＝ケーとヴーアミ族を同一種族とする解釈も提示しています。

まとめ

ツァトゥグァは、複数の作家によって解釈が異なる、多面的な旧支配者です。その起源、容姿、系譜、眷属、そして関連する神話的実体など、多くの謎と解釈の余地を残しながら、クトゥルフ神話において重要な存在であり続けています。

もう一度検索