アクスム

エチオピア北部、ティグレ州のアドワ山地近くに位置するアクスムは、古代から連綿と続く歴史を持つ重要な都市です。

この地は、紀元前後頃に興り、7世紀頃まで東アフリカから南アラビアにかけて強大な勢力を誇ったアクスム王国の中心地でした。最盛期には、地中海世界の東ローマ帝国と連携し、紅海を舞台とした海上貿易によって大いに繁栄を享受しました。特にエザナ王の時代には、公式にキリスト教が採用され、アクスムは早期からキリスト教国家としての道を歩み始めました。この時代に、ゲエズ語という独自の文字言語が発展し、壮麗な建築様式も生まれました。

しかし、7世紀に入ると王国は衰退期を迎えます。その明確な原因は諸説ありますが、イスラーム勢力の台頭に伴い、沿岸貿易が阻害され、地中海の主要市場であったアレクサンドリアやコンスタンティノープルとの交易関係が途絶えたことが、繁栄の終焉につながったと考えられています。王国の影響力が低下するにつれて、アクスムの地位も相対的に低下し、エチオピア帝国の中心は内陸部へと移っていきました。

アクスムは、エチオピア正教会にとって最も重要な聖地の一つです。街の中心にあるシオンのマリア教会は、かつて契約の聖櫃が納められていたとされる神聖な場所であり、歴代のエチオピア皇帝も来拝した歴史を持ちます。現在の教会は17世紀に再建されたものですが、その起源はエザナ王の時代にまで遡ると言われています。隣接する新シオンのマリア教会は20世紀半ばに建てられ、こちらは女性の礼拝も受け入れています。これら新旧の教会と小礼拝堂は、エチオピア正教徒にとって最高の位を持つ巡礼地となっています。毎年1月にはティムケット祭（神現祭）、11月にはマリヤム・シオン祭など、重要な宗教祭事が行われ、多くの人々で賑わいます。

アクスムを訪れる際に最も印象的な遺跡は、約1700年前に建造された巨大な石碑、通称ステッレ（オベリスク）群です。これらの石碑は墓標と考えられており、側面に建物を模した彫刻が施されています。北ステッレ公園には複数のステッレが立ち並び、中でもエザナ王のステッレは高さ24メートルに及びます。最も巨大なステッレは高さ33メートルと推定されますが、建設中に倒壊したと伝えられ、現在は地面に横たわっています。特に有名なのは、1937年にイタリア軍によってローマに持ち出されたステッレで、これはアクスム王国の高度な技術を示す証として国際的に注目されました。長い返還交渉を経て2005年にエチオピアに戻され、修復の後2008年に再び元の場所に立てられました。これらのステッレは、エチオピアの人々にとって祖国の誇りを象徴する存在となっています。

ステッレ群の他にも、アクスムには多くの歴史的な遺構が残されています。考古学・民俗学博物館には、ゲエズ語や古代ギリシャ語などで記されたエザナストーンが展示されており、古代エジプトのロゼッタストーンを彷彿とさせます。また、バゼン王墓のような巨石建造物、貯水槽として利用されているシバの女王の浴槽（伝説によればシバの女王の住居があったとされる場所）、4世紀のタアカ・マリヤム宮殿や6世紀のデュングル宮殿といった王宮跡、修道院跡、そして岩に彫られたゴベドラの雄ライオン像など、多岐にわたる遺跡を見ることができます。

これらの豊かな歴史遺産が評価され、アクスムの考古遺跡は1980年にユネスコの世界遺産に登録されました。登録基準としては、「人類の創造的才能を表現する傑作」および「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」を満たすものとされています。ザマニ事業のような取り組みにより、主要な遺跡の3次元記録も行われ、将来への保存が進められています。

現代のアクスムは、2015年時点で約6万6800人の人口を擁し、その多くがエチオピア正教徒です。気候は温暖冬季少雨高地気候（Cwb）に属します。古代の栄光と現代の信仰、そして貴重な歴史遺産が共存する、特別な場所と言えるでしょう。

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