アグラブ朝

アグラブ朝（800年 - 909年）

アグラブ朝は、アッバース朝の支配下で、現在のチュニジアにあたる地域を拠点としたイスラム王朝です。首都はカイラワーンに置かれました。スンナ派イスラム教を国教とし、北アフリカに独自の勢力を築きました。

歴史

建国

アグラブ朝の創始者は、イブラーヒーム・イブン・アグラブです。彼はイフリーキヤ（現在のチュニジアを中心とする地域）の混乱を鎮め、自立政権を樹立しました。アッバース朝のカリフ、ハールーン・アッ＝ラシードに貢納金を納めることで、イフリーキヤ総督として認められ、アッバース朝の宗主権下でありながらも、事実上独立した地方政権を確立しました。また、フランク王国のカール大帝に珍獣を贈るなど、外交的な活動も行いました。

初代君主イブラーヒーム1世は、自身をアッバース朝から派遣されたアミールと称し、後継者もアミールの称号を踏襲しましたが、貨幣にはアッバース朝のカリフの名を刻むことはありませんでした。

発展期

第3代君主ズィヤーダ・アラーフ1世の時代に、アグラブ朝は大きく発展しました。827年からはシチリア島への侵攻を開始し、シチリア首長国（831年 - 1072年）を成立させました。これにより、ヨーロッパ近海の制海権を掌握し、地中海の島々を征服するなど、その勢力を拡大しました。

全盛期

王朝は第7代君主ズィヤーダ・アラーフ2世の時代に全盛期を迎えました。シチリア島の征服は902年にイブラーヒーム2世によって完了し、タオルミーナが陥落しました。キリスト教徒の信仰は尊重されましたが、シチリア島西部ではムスリムの移住が進み、パレルモなどの都市を中心にイスラーム化が進展しました。

滅亡

909年、ファーティマ朝の創始者ウバイドゥッラーの侵攻を受け、当時の君主ズィヤーダ・アラーフ3世は逃亡し、アグラブ朝は滅亡しました。

カイラワーンの大モスク

アグラブ朝は文化的な貢献も行いました。世界遺産に登録されているカイラワーンの大モスク（シディ・ウクバ・モスク）は、ウマイヤ朝の将軍ウクバによって670年に創建されましたが、アグラブ朝のズィヤーダ・アラーフ1世によって836年に再建が開始され、イブラーヒーム2世の時代に完成しました。このモスクは、メッカ、マディーナ、エルサレムに次ぐ「天国への第4の門」と称えられ、カイラワーンの重要性を高めました。

歴代君主

イブラーヒーム1世（800年－812年）
アブド・アッラーフ1世（812年－817年）
ズィヤーダ・アラーフ1世（817年－838年）
アル＝アグラブム（838年－841年）
ムハンマド1世（841年－856年）
マフマド（856年－863年）
ズィヤーダ・アラーフ2世（863年－864年）
ムハンマド2世（864年－875年）
イブラーヒーム2世（875年-902年）
アブド・アッラーフ2世（902年－903年）
* ズィヤーダ・アラーフ3世（903年－909年）

アグラブ朝は、短期間ながらも北アフリカの歴史において重要な役割を果たし、政治、軍事、文化の各方面に大きな影響を与えました。

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