アシュモレアン博物館

アシュモレアン博物館：世界最古の大学博物館の軌跡

アシュモレアン博物館は、イギリス・オックスフォード大学に位置する、世界で最初の大学博物館として知られています。1677年、政治家であり錬金術研究者、そして熱心な収集家であったイライアス・アシュモールが、オックスフォード大学に自身の膨大なコレクションを寄贈したことが、その始まりです。このコレクションは、のちに「驚異の部屋」として知られる空間を埋め尽くし、1683年に正式にアシュモレアン博物館として開館しました。

アシュモールの収集品は多岐に渡り、古銭、書籍、版画、地質標本、動物標本などが含まれていました。中には、ヨーロッパで最後に目撃されたとされるドードー鳥の剥製もありましたが、残念ながら保存状態が悪く、現在残っているのは一部のみです。また、庭師であり旅行家でもあったジョン・トラデスカント父子からの寄贈も、博物館の初期コレクションを豊かにしました。

最初の館長には、オックスフォード大学で最初の化学教授を務めたロバート・プロットが就任。その後、博物館は幾度かの移転や改修を経て、現在の姿になりました。かつての建物は、オックスフォード英語辞典の編集室として使用された時期もありました。現在の博物館の建物は、1845年に建築家チャールズ・コッカレルの設計によりボーモント・ストリートに建てられた新古典主義建築で、壮麗な外観が特徴です。

収蔵品は、設立当初のコレクションに加え、近現代にかけて収集された膨大な考古学資料や芸術作品で構成されています。特に、ラファエル前派の絵画コレクションは世界的に高く評価されており、マジョリカ陶器や英国銀器のコレクションも充実しています。考古学部門では、クレタ島以外では最大規模を誇るアーサー・エヴァンズによるミノア文明コレクション、古代エジプトやスーダンの遺物など、貴重な資料が展示されています。また、エジプト学の研究機関であるグリフィス研究所も館内に設置されています。

しかし、アシュモレアン博物館の歴史は、輝かしいコレクションだけでなく、残念な出来事も刻んでいます。1999年には、隣接建物の足場を利用した大胆な手口で、ポール・セザンヌの油絵「オーヴェル＝シュル＝オワーズの眺望」が盗難されるという事件が発生しました。犯人は他の作品には手をつけなかったことから、何らかの目的を持った計画的な犯行であったと推測されています。

近年、アシュモレアン博物館は内部を大幅に改修し、現代的な施設へと生まれ変わりました。レストランやギフトショップが設置され、快適な見学環境が整備されています。2001年には、古代文明・考古学、美術史に関する貴重な蔵書を収めたサックラー図書館が開館し、博物館の研究機能をさらに強化しました。

現在、アシュモレアン博物館は、ミケランジェロ、ラファエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチといった巨匠の素描、ターナーやコンスタブルなどの名画、オリバー・クロムウェルのデスマスク、そして「アルフレッドの宝石」など、数々の貴重な品々を展示しています。世界最古の大学博物館としての歴史と、充実したコレクション、そして近代的な施設を兼ね備えたアシュモレアン博物館は、オックスフォード大学、ひいてはイギリスの文化遺産を象徴する存在となっています。

博物館は毎日午前10時から午後5時まで開館しており、誰でも訪れることができます。歴史と芸術、そして科学の融合を体感できる、魅力的な空間です。

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