アシン・ウィラトゥ
ウィラトゥ（ビルマ語: ဝီရသူ）は、1968年7月10日生まれのミャンマーの仏教僧侶であり、同国における反イスラーム運動の主要な人物として知られている。彼の活動は、特に民族主義的な「969運動」や「マバタ」といった組織と深く結びついており、イスラム教徒への差別や迫害を助長したとの批判を浴びている。
マンダレー近郊のチャウセで生まれたウィラトゥは、14歳で学校を辞め、17歳で出家した。俗世の煩悩から離れたいという願望が出家の動機だったとされる。彼の思想形成には、元仏教普及伝道局長であったチョールイン師の著作『ひとりの善き仏教徒』が影響を与えており、この書籍が後に969運動の思想的な基盤の一つとなったと言われている。チョールイン師の死後間もない2001年、ウィラトゥはアフガニスタンのタリバンによるバーミヤン石仏破壊事件に衝撃を受け、反ムスリム的な内容のパンフレットを作成し、信徒への配布や説法を通じて布教活動を開始した。しかし、2003年にチャウセで発生したイスラム教徒殺害事件に関連し、反ムスリム的な扇動を行ったとして逮捕され、禁錮25年の刑を言い渡された。
約9年間の服役を経て、2012年1月に恩赦により釈放されたウィラトゥは、モン族の僧侶たちが展開していた反ムスリム運動「969運動」に加わった。ミャンマーにおけるインターネットの普及を背景に、彼はFacebookやYoutubeといったソーシャルメディア、DVDなどの媒体を駆使して自身の主張を広範に拡散し、各地で精力的に説法会を開催した。969運動の主張は、ムスリム経営の店舗での購買や、仏教徒とムスリム間の交流、特に結婚や恋愛を避けるよう呼びかけるなど、露骨に反ムスリム感情を煽るものが多かった。ウィラトゥ自身の説法も、「モスクは敵の建物」「ムスリム男性による仏教徒女性への性的暴行は彼らの教義で奨励されている」といった根拠のない主張や、反ムスリム的な政治家を支持するよう呼びかけるなど、極めて扇動的な内容を含んでいた。
こうした活動と時を同じくして、2012年から2013年にかけて、ラカイン州をはじめとするミャンマー各地で仏教徒とイスラム教徒の間での深刻な衝突事件が頻発した。これらの衝突は多数の死傷者や避難民を発生させ、ウィラトゥの活動がこうした社会不安を助長しているとの見方が強まった。
2013年6月、アメリカの『タイム』誌はウィラトゥを「仏教徒テロの顔（The Face of Buddhist Terror）」として表紙に掲載し、彼の特集記事を組んだ。この記事は世界的に注目を集めたが、ミャンマー国内では強い反発を招き、彼の擁護や『タイム』誌への抗議の声が高まった。ウィラトゥ自身も、記事が誤解を招くものであり、自身が「ミャンマーのビンラディン」と揶揄されることへの不満を表明した。
こうした状況を受け、ミャンマー国内の仏教僧組織を統括する国家サンガ大長老委員会（マハナ）は、2013年9月に「969」という数字の政治利用や関連組織の設立を禁止する声明を発表した。これにより969運動は表立った活動が困難になったが、ウィラトゥらは同年6月に設立していたミャンマー愛国協会（マバタ）に活動を引き継がせた。マバタは政治的な影響力を強め、2015年にはムスリムへの差別につながるとされる「民族保護法4法」の成立に中心的役割を果たした。
2015年の総選挙で、国民民主連盟（NLD）が勝利し政権を握ると、マバタへの風当たりが強まった。NLD政権の働きかけもあり、マハナは2016年7月にマバタを「公式の仏教組織ではない」と宣言し、さらに2017年5月にはマバタの看板撤去を命じるなど、その活動を大きく制限した。ウィラトゥ自身も、2017年3月にマハナから公の場での説法を1年間禁止される処分を受けた。
その後もウィラトゥは自身の主張の発信を続け、2018年にはロヒンギャに対する国軍の作戦を支持する発言が問題視され、Facebookアカウントが凍結された。さらに、2019年5月には憲法改正反対集会での発言が、政府に対する中傷や国軍への過度な賛美を含んでいたとして「動乱罪」の容疑で逮捕状が出された。彼はしばらく逃亡していたが、2020年11月に出頭し逮捕された。
2021年9月、クーデター後の軍事政権による恩赦により、ウィラトゥは釈放された。しかし、その後の活動はかつてのような影響力を持っておらず、2022年10月に開催された釈放後初の説法会への出席者は極めて少数にとどまった。2023年1月には、国家への功績を讃えるティリピャンチ勲章を授与されたものの、これは数千人が同時に受章したものであり、彼の影響力回復を示すものではなかった。近年では、2024年8月に民族武装勢力が国軍拠点を占拠した際、国軍最高司令官を批判するなど、軍事政権に対しても批判的な姿勢を見せることもある。
生い立ちと初期の活動
マンダレー近郊のチャウセで生まれたウィラトゥは、14歳で学校を辞め、17歳で出家した。俗世の煩悩から離れたいという願望が出家の動機だったとされる。彼の思想形成には、元仏教普及伝道局長であったチョールイン師の著作『ひとりの善き仏教徒』が影響を与えており、この書籍が後に969運動の思想的な基盤の一つとなったと言われている。チョールイン師の死後間もない2001年、ウィラトゥはアフガニスタンのタリバンによるバーミヤン石仏破壊事件に衝撃を受け、反ムスリム的な内容のパンフレットを作成し、信徒への配布や説法を通じて布教活動を開始した。しかし、2003年にチャウセで発生したイスラム教徒殺害事件に関連し、反ムスリム的な扇動を行ったとして逮捕され、禁錮25年の刑を言い渡された。
969運動の拡大と社会的混乱
約9年間の服役を経て、2012年1月に恩赦により釈放されたウィラトゥは、モン族の僧侶たちが展開していた反ムスリム運動「969運動」に加わった。ミャンマーにおけるインターネットの普及を背景に、彼はFacebookやYoutubeといったソーシャルメディア、DVDなどの媒体を駆使して自身の主張を広範に拡散し、各地で精力的に説法会を開催した。969運動の主張は、ムスリム経営の店舗での購買や、仏教徒とムスリム間の交流、特に結婚や恋愛を避けるよう呼びかけるなど、露骨に反ムスリム感情を煽るものが多かった。ウィラトゥ自身の説法も、「モスクは敵の建物」「ムスリム男性による仏教徒女性への性的暴行は彼らの教義で奨励されている」といった根拠のない主張や、反ムスリム的な政治家を支持するよう呼びかけるなど、極めて扇動的な内容を含んでいた。
こうした活動と時を同じくして、2012年から2013年にかけて、ラカイン州をはじめとするミャンマー各地で仏教徒とイスラム教徒の間での深刻な衝突事件が頻発した。これらの衝突は多数の死傷者や避難民を発生させ、ウィラトゥの活動がこうした社会不安を助長しているとの見方が強まった。
国内外の注目と組織の変遷
2013年6月、アメリカの『タイム』誌はウィラトゥを「仏教徒テロの顔（The Face of Buddhist Terror）」として表紙に掲載し、彼の特集記事を組んだ。この記事は世界的に注目を集めたが、ミャンマー国内では強い反発を招き、彼の擁護や『タイム』誌への抗議の声が高まった。ウィラトゥ自身も、記事が誤解を招くものであり、自身が「ミャンマーのビンラディン」と揶揄されることへの不満を表明した。
こうした状況を受け、ミャンマー国内の仏教僧組織を統括する国家サンガ大長老委員会（マハナ）は、2013年9月に「969」という数字の政治利用や関連組織の設立を禁止する声明を発表した。これにより969運動は表立った活動が困難になったが、ウィラトゥらは同年6月に設立していたミャンマー愛国協会（マバタ）に活動を引き継がせた。マバタは政治的な影響力を強め、2015年にはムスリムへの差別につながるとされる「民族保護法4法」の成立に中心的役割を果たした。
活動制限と逮捕
2015年の総選挙で、国民民主連盟（NLD）が勝利し政権を握ると、マバタへの風当たりが強まった。NLD政権の働きかけもあり、マハナは2016年7月にマバタを「公式の仏教組織ではない」と宣言し、さらに2017年5月にはマバタの看板撤去を命じるなど、その活動を大きく制限した。ウィラトゥ自身も、2017年3月にマハナから公の場での説法を1年間禁止される処分を受けた。
その後もウィラトゥは自身の主張の発信を続け、2018年にはロヒンギャに対する国軍の作戦を支持する発言が問題視され、Facebookアカウントが凍結された。さらに、2019年5月には憲法改正反対集会での発言が、政府に対する中傷や国軍への過度な賛美を含んでいたとして「動乱罪」の容疑で逮捕状が出された。彼はしばらく逃亡していたが、2020年11月に出頭し逮捕された。
釈放後と現在の状況
2021年9月、クーデター後の軍事政権による恩赦により、ウィラトゥは釈放された。しかし、その後の活動はかつてのような影響力を持っておらず、2022年10月に開催された釈放後初の説法会への出席者は極めて少数にとどまった。2023年1月には、国家への功績を讃えるティリピャンチ勲章を授与されたものの、これは数千人が同時に受章したものであり、彼の影響力回復を示すものではなかった。近年では、2024年8月に民族武装勢力が国軍拠点を占拠した際、国軍最高司令官を批判するなど、軍事政権に対しても批判的な姿勢を見せることもある。
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