アストンマーティン・ヴァルキリー

アストンマーティン ヴァルキリー:究極のハイパーカーとその軌跡



アストンマーティンとレッドブル・レーシングという、英国を代表する高級スポーツカーメーカーとF1の強豪チームによる夢のコラボレーションから生まれた「ヴァルキリー」。その名は、北欧神話に登場する戦死した英雄の魂を導く存在「ワルキューレ」に由来し、アストンマーティン伝統の”V”イニシャルを受け継いでいます。

開発への道のり:革新技術と情熱の融合



ヴァルキリーの開発は、アストンマーティンが持つ伝統的なスポーツカーのノウハウと、レッドブルがF1で培ってきた最先端技術を融合させた、まさに究極のロードカーを目指した壮大なプロジェクトでした。両社のデザイン責任者、アストンマーティンのマレック・ライヒマンと、F1マシン設計の鬼才として名高いレッドブルのエイドリアン・ニューウェイが中心となり、綿密なシミュレーションと緻密な設計、そして数々の技術パートナーとの協業を経て、この異例のハイパーカーが誕生しました。ニューウェイ自身、ロードカーの設計を長年の夢としていたこともあり、その情熱が開発を大きく推進しました。

2014年、夏季休暇中に生まれたアイディアは、9カ月のシミュレーションを経て、アストンマーティンとのパートナーシップへと発展。両社の工場が近接していたこと、そして以前からの関係性が、この協業を成功に導いた要因の一つと言えるでしょう。2016年のプロジェクト正式発表後、幾多の開発を経て2021年にようやくデリバリーが開始されました。その価格は200~250万ポンド(約3億2,000万~4億円)と非常に高額でしたが、限定150台の生産台数は予約で完売しました。日本には11台が届けられる予定です。

ヴァルキリーの多様な顔:スパイダーとAMR Pro



ヴァルキリーは、オープントップモデルの「ヴァルキリー スパイダー」(限定85台)と、サーキット走行に特化した「ヴァルキリー AMR Pro」(限定40台)というバリエーションも存在します。スパイダーは、ルーフを取り外した状態でも空力性能を維持できるよう、アクティブエアロダイナミクスシステムとアクティブシャシーシステムが最適化されています。一方、AMR Proは、公道走行に必要な装備を徹底的に排除し、究極のサーキット性能を追求したモデルです。

圧倒的な動力性能:1,000馬力を超える自然吸気V12エンジン



ヴァルキリーの心臓部には、コスワース製の6,500 cc自然吸気V型12気筒エンジンを搭載。最高回転数は11,000 rpmに達し、最大出力は1,014馬力、最大トルクは740 Nmを発生します。ロードカー用の自然吸気エンジンとしては世界初の1,000馬力超えを達成したとされています。さらに、F1由来のハイブリッドシステムと組み合わせることで、システム全体で1,176馬力の圧倒的なパワーを実現しています。

軽量かつ空力性能に優れたボディ:F1技術の粋を集めて



軽量化を徹底したカーボンファイバー製車体は、約1,000 kgの車両重量を実現。パワーウェイトレシオは驚異的な1:1 (1.0 kg/PS)を達成しています。また、ニューウェイが手がけたゲーム「グランツーリスモ」シリーズのレッドブル・X2010のデザインを応用した、空力性能を重視した大胆なボディデザインも特徴です。大きなフロント開口部、フラップ付きの吊り下げ式ウィング、ティアドロップ形状の車体下面など、F1マシンを彷彿とさせる空力デバイスが、優れたダウンフォースを生み出します。

コクピット:フォーミュラカーのようなドライビングポジション



ヴァルキリーのコクピットは、フォーミュラカーのような、足を持ち上げた独特のドライビングポジションが特徴です。2人乗りながら、身長2mのドライバーでも快適なポジションを取れるよう、運転席と助手席の位置を微妙にずらして配置。スイッチ類は脱着式ステアリングに集約されています。オープントップモデルであるスパイダーは、シザーズドアを採用しています。

モータースポーツへの挑戦:AMR Proとル・マン参戦



サーキット専用モデルである「ヴァルキリー AMR Pro」は、ル・マン24時間レース参戦を目指して開発されました。しかし、当初計画していたLMH(ル・マン・ハイパーカー)プログラムの変更により、レースレギュレーションの制約を受けずに、究極のパフォーマンスを追求したマシンへと進化しました。最高速度400km/h、3.3Gを超えるコーナリングフォース、そして3.5Gを超える減速フォースに耐えうる性能を持つとされています。そして、2023年、2025年からのル・マン24時間レースへの参戦が発表されました。ヴァルキリーAMR Proは、WECとIMSAの両シリーズに参戦する初のLMHマシンとなる予定です。

ヴァルキリー:伝説の幕開け



アストンマーティンとレッドブルという異色の組み合わせが作り上げたヴァルキリーは、単なるハイパーカーの枠を超え、技術革新と情熱の結晶です。その伝説は、2025年のル・マン24時間レースで新たな章を迎えます。

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