アソシエイテッド・インディペンデント・レコーディング

アソシエイテッド・インディペンデント・レコーディング（Associated Independent Recording: AIR）は、音楽史に名を刻む数々の名盤を生み出してきた、世界的に有名なレコーディング会社です。その始まりは1965年、ビートルズの音楽プロデューサーとして知られるジョージ・マーティンと、ジョン・バージェスによってロンドンで設立されました。当時、EMIから独立した彼らは、独自の音楽制作の理想を追求するため、この会社を立ち上げたのです。1969年からは自社スタジオを運営し、そのクオリティの高さから多くのアーティストに愛されてきました。

オックスフォード・ストリート時代

AIRの最初のスタジオは、ロンドンの中心部、オックスフォード・ストリート214番地のビル4階に開設されました。このスタジオは、4つのレコーディングルームに加え、MIDIプログラミングルームを備えていました。内部には、2台のベーゼンドルファー製グランドピアノ、防音ブース、そして特筆すべきは、Neve Electronicsに特注された56チャンネルのミキシングコンソールでした。このコンソールは、AIRのサウンドを特徴づける重要な要素となりました。

カリブ海の楽園、AIRモントセラト

1970年代半ば、AIRはカリブ海の英国領土モントセラトに新たなスタジオを設立しました。このスタジオは、当時としては最先端の機材を誇り、1986年の大規模改修で、その設備はさらに強化されました。コントロールルームには、オートメーション機能とTR（トータルリコール機能）を備えたソリッド・ステート・ロジック（SSL）製の60チャンネルミキシングコンソール、FocusriteのRupert Neveによる完全統合12チャンネルコンソール、32トラックのMITSUBISHI X-850デジタルレコーダー2台、そして24トラックのStuder A800アナログレコーダーが導入されました。デジタルミキシングには、MITSUBISHI X86が使用されました。

モントセラトのスタジオは、ポール・マッカートニー、ポリス、ローリング・ストーンズ、デュラン・デュラン、エルトン・ジョン、ボーイ・ジョージ、ブラックサバス、フィル・コリンズ、ダイアー・ストレイツ、ウルトラボックスなど、数多くの著名アーティストのレコーディングの場となりました。しかし、1989年9月にハリケーンの被害を受け、スタジオは閉鎖されました。建物自体は現存していますが、現在は廃墟となっています。

1993年、日本のレコード会社ファンハウスが、札幌芸術の森に隣接する「札幌アートヴィレッジ地区」に、ジョージ・マーティンの音響設計による滞在型レコーディングスタジオ「ファンハウス札幌スタジオ（現名・芸森スタジオ）」を設立する際、モントセラトで使用されていたSSLのミキシングコンソール（SSL4000E）や、マイクなどの機材の一部が譲渡されました。モントセラトの遺産は、日本の地でも生き続けています。

現在の拠点、AIRリンドハースト・ホール

現在のAIRスタジオは、ロンドン西部ハンプステッド近郊にある、イギリス指定建造物2級のリンドハースト・ホールにあります。この建物は、アルフレッド・ウォーターハウスによって設計された歴史的な建造物で、1991年にAIRが取得し、大規模な改修を施した後、1992年にレンタルレコーディングスタジオとしてオープンしました。

リンドハースト・ホールは、クラシック音楽やポピュラー音楽のレコーディングだけでなく、映画音楽、テレビのポストプロダクション、効果音、テレビゲーム音楽など、幅広い分野で利用されています。ロンドンにおける重要な音楽制作施設として、その役割を担い続けています。

AIRスタジオは、その長い歴史の中で、数多くのアーティストの創造性を引き出し、音楽史に残る名盤を生み出してきました。これからも、その伝統と革新を受け継ぎ、音楽業界を牽引していくことでしょう。

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