アダム・シャール

ヨハン・アダム・シャール・フォン・ベル（1592年5月1日 - 1666年8月15日）は、ドイツ出身のイエズス会宣教師であり、科学者としても活躍しました。日本では「アダム・シャール」と表記されることが多いですが、ドイツ語の発音に近いのは「シャル」です。中国では「湯若望（とうじゃくぼう）」の名で知られています。

生涯

1592年に神聖ローマ帝国のケルンで生まれたシャールは、1611年にローマのイエズス会に入会しました。1618年には、ニコラ・トリゴーに率いられて中国へ向かい、1619年にマカオに到着しました。しかし、当時の中国ではキリスト教への迫害が激しく、しばらくマカオから出ることができませんでした。

1623年、キリスト教への迫害が終わると、シャールは徐光啓の招きで北京へ赴きました。そこで、月食の予測を見事に的中させたことで名声を博しました。1627年には西安で布教活動を行いました。

崇禎帝の時代には、徐光啓の進言により、ヨハン・シュレックらが改暦の作業を行っていました。しかし、シュレックが1630年に亡くなったため、シャールが後を継いで北京の欽天監で改暦に取り組みました。シャールは他の宣教師や中国の学者たちと協力し、西洋天文学の書籍を翻訳しました。1631年から1634年にかけて、徐光啓と李天経がその成果を『崇禎暦書』として宮廷に提出しました。また、シャールは望遠鏡や大砲の製造にも携わりました。

1644年、明が滅亡し、清が中国を支配するようになりましたが、シャールは北京に残り、清朝に仕えることを認められました。シャールは『崇禎暦書』の略本である『西洋新法暦書』を翌年に提出し、これが時憲暦として採用されました。順治帝によって欽天監監正（天文台長官）に任命され、中国で正式な官吏となった最初の西洋人となりました。しかし、このことが伝統的な天文学者やイスラム天文学者からの嫉妬を招くことになりました。

1650年、シャールは北京の教会（南堂）の改築を行いました。1661年に順治帝が亡くなった後、オボイによる摂政時代の1665年、楊光先の告発により、シャールやその補佐役であったフェルディナンド・フェルビーストを含む8人が収監されました（康熙暦獄）。一旦は死刑宣告を受けましたが、太皇太后のとりなしで釈放され、翌年北京で亡くなりました。楊光先によるキリスト教の迫害は、オボイが失脚する1669年まで続き、その間、時憲暦は廃止されていました。オボイの死後、時憲暦は復活し、清朝が滅亡して中華民国が成立するまで使用されました。中華民国は、建国と同時にグレゴリオ暦を採用しましたが、現在でも春節の日は時憲暦をもとに決定されるなど、シャールの成果は一部で利用が続いています。

脚注

『清史稿』列伝59 湯若望、楊光先、南懐仁
『清史稿』志20 時憲一

関連項目

中国のキリスト教

関連文献

アドリアン・グレロン　『東西暦法の対立　清朝初期中国史』（矢沢利彦訳注、平河出版社、1986年）
『イエズス会士書簡集　中国の布教と迫害』（矢沢利彦編訳、平凡社東洋文庫、1980年）

外部リンク

Johann Adam Schall von Bell（カトリック百科事典、1913年）
Johann Adam Schall von Bell, Biographical Dictionary of Chinese Christianity
湯若望, 華人基督教史人物辭典

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