徐光啓

徐光啓（じょ こうけい）

徐光啓（1562年4月24日 - 1633年11月8日）は、明代末期の中国において、卓越した知識と先見性を持った人物です。暦数学者として名を馳せると同時に、熱心なキリスト教徒としても知られています。字は子先、号は玄扈、洗礼名はパウルス。

生涯

上海青浦で生まれた徐光啓は、幼い頃から学問に励み、その才能を開花させました。1597年には郷試で首席合格を果たし、その博学ぶりを示しました。1599年、彼はマテオ・リッチ（利瑪竇）という宣教師の名を聞き、その教えを求めて南京へ赴きます。1603年には、ジョアン・ダ・ロシャ（羅如望）から洗礼を受け、キリスト教徒としての道を歩み始めました。

その後、進士に及第し、翰林院庶吉士という役職に就いた徐光啓は、リッチとの交流を深める中で、西洋の学問（いわゆる洋学）に対する知識を深めていきました。天文学、地理学、物理学、水利、暦数など、多岐にわたる分野においてリッチから教えを受け、その内容を翻訳・筆記し、公刊しました。特に、ユークリッドの『原論』を翻訳した『幾何原本』6巻（『四庫全書』に収録）は、西洋の数学を中国に紹介する上で重要な役割を果たしました。また、ディエゴ・デ・パントーハ（龐迪我）の著書『七克』7巻の編纂も支援しました。

1610年にリッチが亡くなった後も、徐光啓は官僚としてのキャリアを重ねます。1623年には礼部右侍郎に任命されましたが、魏忠賢派による弾劾を受け、一時的に官界を離れます。しかし、1628年には再び召喚され、左侍郎、そして尚書へと昇進を重ねました。

当時、崇禎帝が日食の観測ミスを理由に天文台の役人を処罰しようとした際、徐光啓は毅然と進言しました。「これは郭守敬の暦法による誤りであり、元代にも同様の事例があった。天文台の観測ミスは責められるべきではない。暦法の修正こそ急務である」と。この進言を受けて、崇禎帝は宣教師のニコロ・ロンゴバルディ（竜華民）とヨハン・シュレック（鄧玉函）を召喚し、暦法の改定を命じ、徐光啓をその監督役に任命しました。1632年には多くの暦書を献上し、翌年には東閣大学士兼枢機参与となり、太子太保の位も与えられました。経済面でも優れた才能を発揮した徐光啓は、その知識を世のために役立てたいと願っていましたが、周延儒や温体仁といった専制的な官僚たちの存在によって、その志を十分に果たすことができず、そのまま世を去りました。

学問

徐光啓は、その生涯において数多くの著作や翻訳書を遺しました。特に有名なものとして、日本にも大きな影響を与えた農書『農政全書』が挙げられます。また、イエズス会士アダム・シャール（湯若望）の協力によって刊行された暦法書『崇禎暦書』は、中国の暦法を大きく進歩させる上で重要な役割を果たしました。この『崇禎暦書』には、羅雅谷による1631年の『測量全義』や、鄧玉函の『大測』と『割圓八銭表』が収録されており、中国に実質的に初めて三角関数法（八角法）が導入されました。

彼は西洋の科学知識を中国に輸入することに多大な貢献をしましたが、同時に熱心なカトリック教徒でもあり、リッチやロンゴバルディの伝道事業を積極的に支援しました。徐光啓は、カトリックの教えは儒教を補完するものと考えており、その姿勢が迫害を免れ、高位へと昇進できた要因の一つであると考えられています。

参考文献

『明史』251

関連項目

梅文鼎 - 『幾何原本』などを基に暦算・測量法を発展させた。
* 李善蘭 - 『幾何原本』の7巻以降の残りを翻訳した。

脚注

外部リンク

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