アチェ王国

アチェ王国：イスラム教と貿易が栄えたスマトラの王国

アチェ王国（Kesultanan Aceh）は、現在のインドネシア、スマトラ島北端のアチェ特別州に位置したイスラム王国です。16世紀から17世紀にかけて隆盛を極め、マラッカ海峡の貿易を支配しようとしましたが、後に衰退しました。首都はクタラジャ（現在のバンダ・アチェ）でした。

建国と隆盛

15世紀中頃、アチェの支配層はイスラム教に改宗しました。1520年、アリ・ムハヤット・シャーによってアチェ王国が建国され、周辺地域への領土拡大を開始。デリ、ピディ、パサイなどを支配下に置きました。次のスルタン、アラウッディン・アルカハルは、さらに領土を拡大し、マラッカ海峡を挟んでジョホール王国やポルトガル領マラッカと対立しました。オスマン帝国の支援を受け、軍事力を強化しましたが、これらの遠征は成功しませんでした。

17世紀初頭、イスカンダル・ムダがスルタンに即位すると、アチェ王国は全盛期を迎えます。彼はスマトラ島の大部分を支配下に置き、マレー半島のパハンも支配しました。しかし、1629年のマラッカ遠征でアチェ海軍が壊滅的な打撃を受け、その勢いは衰え始めました。その後、王国内で内紛が続きましたが、イスカンダル・ムダの跡を継いだイスカンダル・サニの時代には、内政の安定と信仰の統一が図られました。

衰退

イスカンダル・サニの死後、アチェ王国は4代にわたって女王が統治しました。しかし、被征服民の独立運動が活発化し、地方の有力者が力を増したため、王国の権威は低下しました。17世紀後半には、ペルシア人旅行者がアチェの地方支配者たちが独立しており、王国が名目的な存在に過ぎないことを記録しています。

文化と経済

アチェは、イスラム教の学問の中心地として知られ、「メッカのベランダ」と呼ばれていました。多くのイスラム学者が活躍し、クルアーンやその他のイスラム教典がマレー語に翻訳されました。ハムザ・ファンスーリーやシャムスッディン・パサイなどの著名な学者がいます。

経済面では、胡椒、ナツメグ、クローブ、ビンロウジ、スズなどの輸出で富を築きました。しかし、食糧供給が不安定であり、経済は常に脆弱でした。17世紀に入ると、オランダ東インド会社が台頭し、アチェの貿易における役割は次第に低下していきました。

オランダによる征服

19世紀に入ると、アチェは再び勢力を回復しようとしました。トゥンク・イブラヒムは、有力者を統制し、支配地域を拡大しました。しかし、イギリスが政策を転換し、スマトラ島におけるオランダの支配権を認めたため、アチェはオランダの侵攻を受けることになりました。

1873年、オランダはアチェ戦争を開始。スルタン・マフムド・シャーは国際社会に支援を求めましたが、どの国も支援しませんでした。オランダは首都を占領しましたが、アチェ人は抵抗を続け、ゲリラ戦を展開しました。1903年にスルタンが降伏し、1907年にスルタンが死去した後も、抵抗は続きました。自由アチェ運動を率いたハッサン・ディ・ティロが、最後の世襲国王と見なされています。

アチェ王国の歴代スルタン（一部）

アリ・ムハヤット・シャー（1496年 - 1528年）
アラウッディン・アルカハル（1537年 - 1568年）
イスカンダル・ムダ（1607年 - 1636年）
イスカンダル・サニ（1636年 - 1641年）
タジ・ウル＝アラム女王（1641年 - 1675年）
ムハンマド・ダウド・シャー（1874年 - 1903年）



アチェ王国は、その歴史を通して、イスラム教と貿易が深く結びついた独自の文化を形成しました。しかし、外部からの圧力や内部の混乱により、最終的にその歴史に幕を閉じました。

参考文献

J.M. Barwise and N.J. White. A Traveller’s History of Southeast Asia. New York: Interlink Books, 2002.
M.C. Ricklefs. A History of Modern Indonesia Since c. 1300, 2nd ed. Stanford: Stanford University Press, 1994.

外部リンク

* The History of Sumatra by William Marsden, ca. 1800

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