アツモリソウ

アツモリソウ（敦盛草）について

アツモリソウは、ラン科アツモリソウ属に分類される多年草です。学名は Cypripedium macranthos var. speciosum といい、その特徴的な姿から多くの人々を魅了してきました。和名は、花の形が平敦盛が背負った母衣（ほろ）に似ていることに由来し、同属のクマガイソウと対で命名されています。

特徴

アツモリソウは、30～50cmほどの高さに成長し、茎の先端に赤紫色の袋状の花を咲かせます。花は通常一つですが、まれに二つ咲くこともあります。葉は3～5枚が互い違いに生え、冬には落葉します。生育地は寒冷地を好み、日本では北海道から本州にかけて、草原や明るい疎林で見られます。海外では、ベラルーシ東部から東アジアにかけて分布しています。

アツモリソウを取り巻く現状

アツモリソウは、その美しい花姿から園芸目的で乱獲されることが多く、絶滅の危機に瀕しています。そのため、1997年には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき、「特定国内希少野生動植物種」に指定され、原則として採集が禁止されました。違反した場合には、懲役や罰金が科せられます。

しかし、栽培自体は禁止されておらず、無菌播種などによって人工的に増殖された個体は、環境大臣と農林水産大臣への届け出をすれば販売が可能です。また、購入者は販売業者から住所や氏名などの記録を提出してもらうことで譲り受けることができます。

近年、アツモリソウの無菌播種技術が確立され、大量の苗生産が可能になりました。一部の業者では、園芸品種の開発も進んでいます。しかし、アツモリソウは寒冷地の植物であるため、暖地での栽培は難しく、20℃を超えないように温度管理をする必要があります。

人工増殖が進む一方で、野生のアツモリソウは盗掘や草原の管理放棄による植生遷移などにより、個体数を減らし続けています。野生個体群の存続は、依然として楽観視できない状況です。

変種と近縁種

日本には、アツモリソウの変種として、ホテイアツモリソウ、レブンアツモリソウ、キバナノアツモリソウなどが存在します。これらの種も同様に寒冷地を好みます。

海外には、中国産の雲南緑花アツモリソウ、台湾産の台湾黄花アツモリソウ、北米産のプベッセンスやレギナエなどが近縁種として知られています。これらの種は比較的栽培しやすいとされていますが、耐暑性が低いため、関東以南での長期栽培は難しいとされています。観賞価値の高いレギナエなどは人工繁殖が進められていますが、多くは野生採集された個体が販売されているのが現状です。

保護上の位置づけ

アツモリソウは、環境省レッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されており、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種にも指定されています。これらの指定は、アツモリソウの保全に対する重要性を示しています。

まとめ

アツモリソウは、美しい花を咲かせる一方で、絶滅の危機に瀕している植物です。保護と同時に、人工栽培技術の発展と普及が進められていますが、野生個体群の保全のためには、盗掘の防止や生育環境の保全が不可欠です。今後も、アツモリソウの保護に向けた取り組みが求められます。

参考資料

『アツモリソウと住田の歩み : アツモリソウ栽培技術伝承本』住田町、2023年3月。
「アツモリソウを後世へ 町が栽培技術伝承本発行 5月に役場で先行販売」『東海新報』東海新報社、2023年4月18日、7面。

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