アテネの廃墟

ベートーヴェン作曲『アテネの廃墟』について

『アテネの廃墟』（Die Ruinen von Athen）は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲した劇付随音楽であり、作品113として知られています。この作品は、アウグスト・フォン・コツェブーの同名の戯曲のために作曲されました。全8曲から構成されており、中でも第4曲の「トルコ行進曲」が非常に有名です。

作曲の背景

1811年秋から1812年にかけて作曲されたこの付随音楽は、1811年10月21日にハンガリーのペスト市（現在のブダペスト）に新設されたドイツ劇場のこけら落としのために準備されました。しかし、劇場の開場が遅れたため、初演は翌1812年2月9日に行われました。この初演では、『シュテファン王』も同時に上演されました。当初は戯曲と付随音楽が共に初演されたものの、その後、付随音楽が演奏される機会は減少し、ベートーヴェン自身もこの作品を「気晴らしの小品」と呼んでいました。

演奏会での逸話

1814年1月2日の演奏会で、ベートーヴェンは『アテネの廃墟』から第6、7、8曲を、交響曲『ウェリントンの勝利』と共にプログラムに組み込みました。その際、演奏会のクライマックスで皇帝の肖像画が現れるという演出を施し、これを非常に素晴らしいものだと自負していたという逸話が残っています。これは、ベートーヴェンが自分の考えを具体的に表現した好例と言えるでしょう。

現在の演奏状況

現在では、序曲と「トルコ行進曲」以外は演奏される機会が少ないものの、「トルコ行進曲」はピアノ編曲版も親しまれています。

出版と献呈

序曲は1823年にウィーンのシュタイナー社から出版され、全曲のスコアは1846年にウィーンのアルタリア社より出版されました。この作品はプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世に献呈されています。

楽器編成

この作品は、ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、シンバル、トライアングル、弦五部、ソプラノ独唱、バス独唱、合唱という大規模な編成で構成されています。序曲のみの編成は、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦五部となっています。

あらすじ

物語は、知恵の女神ミネルヴァがソクラテスへの嫉妬から裁判で彼を弁護しなかったため、ゼウスによって2000年の眠りに就かされるところから始まります。2000年の眠りから覚めたミネルヴァは、メルクリウスによってアテネへ連れて行かれますが、そこで彼女はアテネが瓦礫と化し、トルコの支配下にあることに愕然とします。ローマも同様に荒廃していると知らされます。メルクリウスによると、ミューズたちはハンガリーのペストへ逃れたとのこと。ミネルヴァとメルクリウスはペストへ旅立ち、そこで人間が神々とミューズたちに忠誠を尽くしているのを見つけ、ペストが新しいアテネとして蘇っていく様子を描いています。

楽曲解説

序曲

序曲はアンダンテ・コン・モート（ト短調、8分の6拍子）から始まり、マルチア・モデラート（ト長調、4分の4拍子）の序奏と、アレグロ・マ・ノン・トロッポ（ト長調、2分の2拍子）の主部からなる自由な3部形式で構成されています。作品の序曲にふさわしく、明るく伸びやかな雰囲気が特徴です。演奏時間は約5分と、他の序曲に比べて比較的小規模です。序奏には第2曲の動機が使用され、行進曲は第6曲の旋律に基づいています。

トルコ行進曲

「トルコ行進曲」はヴィヴァーチェ（変ロ長調、4分の2拍子）の行進曲で、付随音楽の第4曲に当たります。この主題は、ベートーヴェンのピアノ曲『創作主題による6つの変奏曲』（作品76）から採用されています。主題はベートーヴェンのオリジナルですが、かつてはロシア民謡からの引用説もありました（現在は否定されています）。ピアノ編曲版も広く親しまれており、アントン・ルビンシテインによる編曲も存在します。

構成

全8曲からなる構成は以下の通りです。

1. 序曲（Ouvertüre）
2. 第1曲 合唱 「力強いゼウスの娘よ」（Tochter des mächtigen Zeus）
3. 第2曲 二重唱 「罪もなく、奴隷の身に耐え」（Ohne Verschulden Knechtschaft dulden）
4. 第3曲 回教僧の合唱 「神は衣の袖に月を抱いて」（Du hast in deines Ärmels Falten）
5. 第4曲 トルコ行進曲（Marcia alla turca）
6. 第5曲 舞台裏からの音楽（Zwischenmusik）
7. 第6曲 行進曲と合唱（Schmückt die Altare）
8. 第7曲 合唱 「感じやすい心で」（Wir tragen empfängliche Herzen im Busen）
9. 第8曲 合唱 「国王万歳」（Heil unserm König! Heil!）

編曲

フランツ・リストは1852年（1837年頃とも）に、この作品の主題を用いてピアノと管弦楽のための『幻想曲』（S.122）を編曲しました。1924年にはリヒャルト・シュトラウスとフーゴ・フォン・ホフマンスタールによって、舞踏と合唱を伴う作品として改編されました。また、第3曲「回教僧の合唱」はレオポルト・アウアーによるヴァイオリン独奏版、カミーユ・サン＝サーンスによるピアノ独奏版も存在します。

録音

近年、バレエ音楽『プロメテウスの創造物』や『エグモント』と同様に全曲録音が増えつつありますが、これらの作品に比べると、その数はまだ少ないと言えるでしょう。ベルンハルト・クレーやハンス・フーベルト・シェーンツェラーによる録音が残されています。

参考文献

『作曲家別名曲解説ライブラリー3 ベートーヴェン』（音楽之友社）
『ベートーヴェン:序曲集』（アーノンクール指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団）の解説

外部リンク

アテネの廃墟の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

もう一度検索