アデリーペンギン

アデリーペンギン（Pygoscelis adeliae）は、ペンギン目ペンギン科アデリーペンギン属に分類される中型の海鳥です。南極大陸とその周辺地域に生息し、コウテイペンギンと共に南極で繁殖する唯一のペンギンです。その種名は、1840年に南極を探検したフランス人探検家デュモン・デュルヴィルの妻、アデリーに由来します。彼が上陸した場所はアデリーランドと名付けられ、そこで発見された本種にも彼女の名が付けられました。

分布

アデリーペンギンは、南極大陸周辺の沿岸地域に広く分布しています。繁殖地としては、アデリーランド、ヴィクトリアランド、ウィルクスランド、マック・ロバートソンランド、アデア岬、クロージア岬、ロイズ岬、南極半島、サウスシェトランド諸島などが挙げられます。特に南極半島より南で繁殖するペンギンは、アデリーペンギンとコウテイペンギンのみで、最南端ではロイズ岬（南緯77度）まで分布しています。コウテイペンギンはさらに南でも繁殖します。

形態

アデリーペンギンは、体長60〜70cm、体重約5kgの中型のペンギンです。目の周りには白いアイリングがあり、虹彩は褐色です。嘴は黒く、基部は橙色をしています。後肢は白やピンク色で、足裏は黒色です。体色は、腹側が白色で、頭部と背中側が黒色をしています。特徴的なのは、嘴の根元から先端近くまで羽毛で覆われているため、嘴が短く見える点です。しかし、口を開けると目の前まで開くことができます。これは、南極の厳しい寒さに適応した結果、羽毛のない部分を最小限に抑えたと考えられます。また、尾羽が他のペンギンに比べて長いのも特徴で、これはヒゲペンギンやジェンツーペンギンにも共通する特徴です。これらの3種は、分類上アデリーペンギン属（Pygoscelis属）としてまとめられています。

生態

アデリーペンギンの主な食料は、オキアミ類や魚類です。食性は地域や年、性別によって変動することがあります。例えば、メスはオキアミ類を主に食べ、オスは魚類の比率が高いという報告例があります。成鳥や巣立ち後のヒナの捕食者としてはヒョウアザラシが、卵やヒナの捕食者としてはオオトウゾクカモメやミズナギドリ類が挙げられます。

非繁殖期には、南極大陸の周辺海域で群れを作り、オキアミなどの甲殻類や魚類を捕食します。海での天敵はシャチやヒョウアザラシなどです。近年、地球温暖化の影響により、生息数が減少傾向にあることが懸念されています。

アデリーペンギンは、南極大陸の海岸部や周辺の島々に大きなコロニーを形成します。南極大陸内を主な繁殖地とするペンギンは、アデリーペンギンとコウテイペンギンの2種のみです。繁殖地は海岸に近い岩場で、夏になると雪が解けて岩石が露出する場所に限られます。ロス島には約50万羽からなる巨大なコロニーが存在し、日本の昭和基地付近にも営巣地があります。

繁殖期は、南極の初夏にあたる10月頃から始まります。アデリーペンギンは繁殖地に集まり、小石を積み重ねて火山のような形の巣を作ります。南極では夏でも冷たい雨や雪が降るため、卵が雪解け水に浸かると死んでしまいます。そのため、親鳥はできるだけ高い巣を作ろうとします。しかし、岩が露出している場所は少なく、巣材となる小石は貴重品であるため、巣作りの時期には繁殖地のあちこちで小石の奪い合いが繰り広げられます。

メスが産卵すると、まずオスが抱卵し、メスは海へ採餌に向かいます。ヒナが孵化するまでには約35日間かかり、その間に一度だけオスとメスが交代します。ヒナは茶色い産毛に包まれており、3〜4週間ほどは巣にとどまって両親から給餌を受けます。卵やヒナの天敵は、寒さの他にオオトウゾクカモメ、サヤハシチドリ、オオフルマカモメなどがいます。

ヒナが成長すると、ヒナ同士が集まる「クレイシュ」を形成します。親鳥はオスもメスも海へ採餌に向かうようになります。クレイシュにやってきた親鳥は、鳴き声で自分のヒナを判別し、給餌を行います。クレイシュは3〜4週間ほど続きます。ヒナが換羽し、成鳥と共に海に入るのは夏の終わりの2月頃です。

人間との関係

アデリーペンギンは、地球温暖化の影響、観光や研究による攪乱、漁業による餌資源の競合などによる影響が懸念されています。ロス海やロイズ岬、テルアデリーでは研究用の基地を設置したことにより、一時的に生息数が減少した例もあります。2016年現在、生息数は増加傾向にあるとされていますが、これは未確認だった繁殖地が発見されたことによる影響が大きいと考えられています。1990年代半ばにおける生息数は2,370,000ペア（4,740,000羽）と推定されていましたが、2014年には2006年と2011年の人工衛星による調査から3,790,000ペア（3,520,000〜4,100,000ペア、7,580,000羽）という推定値が報告されています。

日本国内の飼育

1951年、南氷洋で捕鯨を行っていた第二天洋丸が、仕留めたクジラの上に乗っていたアデリーペンギン1羽を捕獲しました。この個体は船内の冷凍庫で飼育され、その後1952年に恩賜上野動物園に寄贈されました。1990年には、サウスシェトランド諸島からアドベンチャーワールドへ60個の卵が輸入され、このうち54個の孵化に成功しました。孵化した個体は、1992年に名古屋港水族館に分譲されました。1995年には、日本で名古屋港水族館が初めて飼育下繁殖に成功しています。1996年現在、日本国内ではアドベンチャーワールドと名古屋港水族館の2施設で計52羽が飼育されています。

みられる水族館

横浜・八景島シーパラダイス
名古屋港水族館
アドベンチャーワールド
海遊館

アデリーペンギンを主人公とした作品

テイコウペンギン
ペンギンズ FROM マダガスカルザ・ムービー

脚注

[外部リンク]

ウィキメディア・コモンズには、アデリーペンギンに関するメディアがあります。
ウィキスピーシーズには、アデリーペンギンに関する情報があります。

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